スピネル型LiNi0.5Mn1.5O4や層状岩塩型LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2,NaNi0.4Mn0.4Fe0.3O2を中心に,低温域(室温~100℃),中温域(~600℃),高温域(~1000℃)の異なる温度域での反応を使い分けることで,酸化物活物質表面層のO2-の一部をF-,Cl-,S2-,N3-にそれぞれ置換した,二成分系あるいは三成分系の複合アニオン化表面層を設けた活物質を合成することができた。電池反応解析において,それぞれのアニオン種固有の特徴を反映するような結果が得られたことから,複合アニオン化表面によってもたらされる効果に関する学術的な体系化の基礎なる部分を構築できたと言える。さらに,各反応の使い分けにより,二元系複合アニオン化表面(たとえばMnO4F2八面体)では,cisとtrans 配位を含む配位の自由度をある程度作り分けて合成することができた。これらの幾何異性体は,それぞれ異なる物性をもたらしたことから,複合アニオン化表面形成による材料設計において,配位の自由度に着想したデザインが可能であることを示すことができたと言える。その他,各反応を組み合わせることで,三元系複合アニオン化表面を合成し,電気化学測定から,それぞれのアニオン種固有の特徴が同時に表出されることがわかった。現段階においては,三種の異なるアニオン種によってもたらされる相乗的な機能の発現には至っていない。今後は,三種のアニオン種を同時に含む複合アニオン化表面について,その配置の自由度や対称性の低下,アニオン種の結合性などを配慮した化合物を合成し,三種のアニオン種が存在することによってもたらされるシステム機能の創発について取り組んでいきたい。
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