複合アニオン化合物の利点は、複数種のアニオンによってもたらされる、その広大な設計自由度にある。一方、そうした広大な自由度を活かすのは非常に難しく、どのような物性機能がどういった複合アニオン化合物で実現しうるか、理論研究の立場から提案することは重要な意味をもつ。当該年度、我々は遷移金属酸水素化物が非従来型超伝導体の候補物質となることを理論計算から指摘した。我々はRuddlesden-Popper相の層状酸化物をベースとしたNi酸水素化物に注目した。第一原理計算の結果、頂点酸素を水素が置換した場合、格子定数の変化およびそれにともなう結晶場効果によって、dx2-y2バンドとそれ以外のdバンドのエネルギー準位差が大きくなることがわかった。結果として、Fermi levelがdx2-y2バンドを横切りつつも、それ以外の軌道がFermi levelの下に密集している状況が実現する。このようなバンド構造は、理論的に高温超伝導をうみだしうるとされたincipient bandの状況とまさに対応する。その結果として、揺らぎ交換近似および線形化Eliashberg方程式の解析をおこなうと、高い超伝導転移温度が期待できることが明らかになった。特にその増強は、高温超伝導体として広く知られる銅酸化物高温超伝導体に匹敵することも明らかになった。このように多軌道性に由来した超伝導性の増強は、理論的にも興味深い。これらの研究成果は、複数の研究会で報告したほか、学術論文の形でも報告した。これ以外にも様々な複合アニオン化合物の新奇物性について、理論提案および実験と連携した理論解析を遂行し、複合アニオン化合物に関する様々な新しい知見を得ることができた。
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