本研究課題は複合アニオンによる触媒活性制御の実現を目指すものである。通常の金属酸化物触媒において、酸化物イオン以外のアニオンを導入することで、その触媒活性の制御を目指すものである。メタンのC-H結合は非常に強固であるが、PtO2表面ではそれが容易に切断される。それはPtO2表面上の配位不飽和なPt原子とCH3の間に非常に安定なPt-C結合が形成されるためである。その安定で強固なPt-C結合のため、CH3は表面に強く束縛される。メタンからメタノールを合成する場合、反応の過程で、そのPt-C結合は切断され、C-O結合が生成しなければならない。しかしながら、PtO2表面でそれは起こりそうもない。我々の計算により、その過程の活性化エネルギーは47.9kcal/molであることが明らかとなっている。これは非常に大きな活性化障壁である。複合アニオンのコンセプトを用いて、PtO2表面を、C-H結合の活性化能が失われない程度に改変し、Pt-C結合を弱めることができれば、C-H結合切断とC-O結合生成の機能を併せ持つ触媒が創出できるだろうという着想に基づき、本年度の研究を実施した。この目的のために、表面における軌道相互作用の解析を用いた。CH3と結合している表面のPt原子に配位しているアキシャル位のO原子をN原子に置換することで、Pt-C結合を弱めることができることを明らかにした。つまり、白金酸窒化物複合アニオンによるメタノール合成触媒の理論的提案を達成した。密度汎関数法を用いた、PtO2表面における触媒反応のシミュレーションにより、メタノール合成の律速段階の活性化エネルギーはN原子のドーピングにより27.7kcal/molにまで低下することが明らかとなった。
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