研究実績の概要 |
最近、複合アニオンを利用した可視光応答型水分解光触媒に注目が集まっている。特に、強誘電性を併せ持つ極性層状酸ハロゲン化物光触媒Bi4NbO8X (X = Cl, Br)は、従来トレードオフの関係にあった高い可視光応答性と光安定性を同時に実現していること、また、高い光触媒活性を示すことから、一層の高活性化に向けて急速に研究が進められている。本研究では、光励起されたキャリアの安定性に、この物質が示す強誘電性に起因する電荷ドメインの形成が関与している可能性に着目し、強誘電ドメイン観察を行うことで、そのドメイン形状を明らかにすることを目的としている。 強誘電ドメインの観察や、そのドメイン境界の解析を行うには、その結晶構造が明らかとなっていることが欠かせないが、本研究において予備的に行った電子回折実験 (粉砕法) では、報告されている空間群(P21cn)とは、消滅則が一部不一致する実験結果が得られていた。そこで、本年度は、まず空間群の決定を行うことを目的とした。TEM観察用試料は、主にArイオンミリング法によって作製し、必要に応じてFIB法を併用した。X = Cl, BrそれぞれのTEM観察用試料に対し、主要な入射方位([100],[010],[110],[001]など)について電子回折パターンを調べ、消滅則を慎重に検討した。その結果、X = Clの空間群を特定するに至り、過去の報告P21cnとは異なることを明らかにした。同様にX = Brに対しても消滅則を詳しく調べ、その空間群を特定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、Sillen-Aurivillius型極性層状ハロゲン化物Bi4NbO8X (X = Cl, Br)の高い光触媒活性の起源の解明を目的とし、本系が強誘電性を示すことに着目して、その強誘電ドメインの形状やドメイン境界構造の解明を行っている。これには、これらの系の結晶構造が明らかになっていることが欠かせないが、本研究のこれまでの成果として、X = Cl, Brともに空間群が過去の報告とは異なることを明らかにし、それぞれの空間群を特定した。また、本結果を受けて、強誘電ドメイン観察に本年度中にすでに着手した。現在までに、暗視野観察と走査型透過電子顕微鏡観察の主要な観察結果が得られており、今後はドメイン境界構造の解明に進む段階になっている。これらのことから、研究計画はおおむね順調に進展していると考える。
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