本研究の目的は、安価な材料で工作した構造模型を使って、無機化合物の魅力を高校生に伝える講義を実施することであった。卒研生を含む共同研究者の協力により、この目的をほぼ達成することができた。 この研究を通じて3種の新規構造模型を開発することができた。具体的には、ピンポン玉とスナップボタンで工作したセラミックス(ペロブスカイト・複合アニオン化合物)の構造模型、クリスマスオーナメント(プラスチックカプセル)とネオジム磁石で工作した白金触媒の構造模型、および、トランジスタとシリコンチューブで工作したナノ炭素材料(フラーレン・ナノチューブ・グラフェン)の構造模型を開発した。いずれの構造模型も比較的軽量で安価なので、持ち運びが簡単かつ多くの講義参加者に配布できるという特徴を持つ。 この模型を用いた講義を、のべ8校の高等学校と1件の科学イベントで実施することができた。新型感染症まん延防止重点措置により、当初計画していた講義数より少なくなってしまったことが悔やまれる。セラミックス、固体触媒の反応、そしてナノ炭素材料は、一部の高校化学の教科書に登場するが、その構造や反応に関する記述は充分ではなく、イラストはやや曖昧である。それゆえ、この構造模型を使った講義を通じて、参加高校生が無機化合物の美しい構造と反応を知るよい機会を提供することができた。 この講義で得られた教育効果に関する知見を国際学会ポスター発表(1件)と化学教育系国際誌(3報)で報告した。講義後のアンケート調査の結果から、実施した講義が高校生から概ね好意的に受け入れられ、使用した構造模型が比較的高い教育効果を示すことが明らかになった。
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