公募研究
負の水素イオンであるヒドリド(H-)が固体内を拡散するヒドリド導電現象は、プロトン(H+)での拡散が困難な中温領域(200-500 ℃)における電気化学的な水素利用を可能とする。将来的な水素社会への貢献や次世代エネルギーデバイスへの応用のためには、安定的に高速ヒドリド導電を示す材料の開発が不可欠である。本研究では、層状ペロブスカイト型酸水素化物におけるアニオン秩序に基づくヒドリド導電パスの設計による、中温領域での高速ヒドリド導電を目標とした。2019年度は以下3つのテーマを推進した。(1)リチウムを含む層状酸水素化物において、300 ℃以上でのヒドリド超イオン導電現象を確認し、それがヒドリド欠損サイトのdisorderを含む構造相転移に由来することを実証した。その導電率は実用性能と目される 0.01 S/cm を上回っており、今後のデバイス化が十分期待できる特筆すべき性能である。(2)上記リチウム系とは異なるアニオン配列をとる新規イットリウム系酸水素化物を発見し、1 mS/cm に達する優れたヒドリド導電特性を確認した。リチウム系がペロブスカイト層における拡散を示すのに対し、イットリウム系は岩塩層における拡散を示すことがユニークである。そのアニオン配列やヒドリド拡散については、粉末回折や電気化学測定といった実験と並行して、領域内の共同研究者による理論計算も実施した。(3)酸化物を「含まない」複合アニオン化合物をターゲットとしたヒドリド導電体開発を実施し、既知物質におけるヒドリド導電特性の観測や新物質の合成に成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
2019年度は層状ペロブスカイト型酸水素化物における、アニオン秩序とヒドリド導電現象との相関をあきらかにすることを目標としていた。それに対し、リチウム系およびイットリウム系において、ヒドリド/ヒドリド欠損の秩序や、ヒドリド/酸素の秩序と導電特性との関係性を見出すことができた。それに加えて、導電特性が実用水準またはそれに準ずるものであること、さらには当初の計画になかった非酸化物系複合アニオンにおけるヒドリド導電体の発見も総合的に考慮し、当初の計画以上に進展していると判断した。
相転移に伴う超イオン導電現象が確認されたリチウム系酸水素化物において、元素置換による超イオン導電相の安定化を試みる。これは古くから知られるAgIをはじめ、相転移を含むイオン導電体における常套手段といえる。イットリウム系では、理論計算によって、岩塩層内にある格子間サイトを拡散パスに含むことで導電率の大幅な向上が見込めることが提案された。その実験証明を目指し、高圧合成やトポケミカル合成といった手法によって、格子間サイトにヒドリドを含む新物質の合成に挑戦する。非酸化物複合アニオン系への展開は、物質・材料探索の選択肢を大きく拡げる。特に第3周期以下の柔らかい元素種の利用は、イオン導電体全般の高機能化に有効であることが知られており、ヒドリド導電においても高性能化への寄与が期待できる。現在は物質の単相化が律速となっているため、まずは合成条件の最適化に注力する。
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