植物(藻類および陸上植物)など光合成生物の機能を最大限に引き出し、活用するためには、「光を集める機能」と「光を逃す機能」のバランスが、進化上どのように最適化されてきたのかを理解し、それを元に更なる改良を加えて「再最適化」することが重要である。しかし、植物の誕生から多様化の歴史は古く、長い歴史を正確に辿り、その進化を理解することは困難であると考えられてきた。 そこで本研究では、植物の光合成装置に広く含まれる集光アンテナ複合体タンパク質(LHC)の進化とその機能の持つ生態的な意義を、多様な生物群において比較解析することにより、葉緑体内における光合成系の再最適化過程がどのように進展し、多様化してきたのかを比較進化学的に明らかにすることを目的に研究を進めた。 始原的な単細胞紅藻Cyanidioschyzon merolae、シアノバクテリア、シロイヌナズナなどを含めた生理学的・ゲノム科学的解析と、分光学的解析を組み合わせることにより、植物が持つLHCは、「光を集める機能」と「光を逃す機能」との両方に関してこれまで予想されていなかった多様性を持つことが示された。また生理学的実験により、集光機能を持つタンパク質機能が、特定の環境ストレス条件下において細胞の生育に重要な役割を持つことが示唆されたこと。これらのことは、環境変動の幅の大きい生態学的ニッチに進出した種が持つLHCが、穏和な条件では現れにくいが、ストレス環境下において有利となる機能を維持することで、適応的な進化を遂げてきたことを示唆している。
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