研究領域 | 新光合成:光エネルギー変換システムの再最適化 |
研究課題/領域番号 |
19H04719
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
増田 真二 東京工業大学, バイオ研究基盤支援総合センター, 准教授 (30373369)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 光合成 / 葉緑体 / プロトン濃度勾配 / NPQ / シアノバクテリア |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、申請者らが近年同定した葉緑体内プロトン濃度調節因子の機能解析を進めることで、光環境に応じてプロトン駆動力を調節する新たな仕組みを解明し、吸収した光エネルギーを熱として安全に消去する「非光化学消光(NPQ)」を制御する新たな仕組みの存在を世界に先駆けて証明することである。
これまでに、様々な逆遺伝学的解析によってNPQの値が野生型のそれよりも上昇する複数の新規変異体の単離に成功している。本学術領域研究の公募班として参画し3年目あたる今年度は、昨年度までの東北大学魚住研究室との共同研究結果を踏まえて、DLDG1の機能に関する研究を論文にまとめ発表することができた。これまでに同定した2つの因子をLAP1およびLAP2として解析していたが、論文投稿時に、LAP1をFLAP1、LAP2をDLDG1 (Day-length-dependent delayed-greening1)と、エディターの求めに応じ改名した。またDLDG1の相互作用因子を明らかにする目的で、DGDG1にProtainAを融合した組換えタンパク質を発現するシロイヌナズナの単離に成功した。さらに、シアノバクテリアのFLAP1, DLDG1の2つのホモログ(それぞれFlpA, PxcA, PxcL)の解析を進め、これらの因子が、シアノバクテリアを暗所から明所に移した際に観測されるプロトンの放出とその制御に関与することを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた論文発表に成功したことが本自己評価とした大きな理由である。この研究発表により、これまで機能が不明であったFLAP1、DLDG1と葉緑体コードのYcf10による葉緑体の新たなプロトン濃度の恒常性維持機構の研究を世界に先駆け発表することができた。今後、この3つの因子の解析を中心に新規プロトン濃度制御系の研究を進めることで、光合成研究分野に新たな指針を提供できると考えられる。さらに、次年度は、シアノバクテリアのFLAP1, DLDG1, Ycf10のホモログの研究をも行うが、この研究が進展した暁には、酸素発生型光合成の調節における光依存的なプロトン排出・流入の制御機構の重要性と普遍性、さらにその進化過程に関する知見をも関連研究分野に提供できると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
1 トランスポータ活性測定 これまでに作出したシロイヌナズナ変異体の解析結果より、1)flap1とdldg1ぞれぞれの単独変異体では表現型に違いが見られないものの 、flap1/dldg1二重変異体は変動光下での生育条件においてペールグリーンの表現型や生育阻害が観察される、2)これら変異体の光依存的なプロトンの培地への放出や取り込みの活性が阻害されること、を見出した。これらの結果から、葉緑体内のプトロンの濃度調節にFLAP1, DLDG1が果たす役割が明らかとなってきた。本年度は、シアノバクテリアを材料に、FLAP1、DLDG1のホモログの変異体を作出し、その単独変異体および多重変異体の表現型を調べる。このことで、シロイヌナズナに見られる表現型が酸素発生型光合成全般に広く保存されているのかが明らかとなる 。
2 シロイヌナズナ・タバコ変異体の表現型解析 これまでに、flap1/dldg1変異体を、既知のNPQ関連変異体(pgr5, npq4, stn8など)と掛け合わせた多重変異体の作出を完了した。今年度はそれら多重変異体の光合成活性測定を重点的に進めることで、これまでのFLAP1/DLDG1に関する我々の機能モデルを検証する。また昨年度までに、 葉緑体コードのYcf10ホモログ遺伝子をスペクチノマイシン耐性遺伝子に置き換えたタバコycf10変異体の構築に成功した。本年度は、得られたタバコ変異体の光合成活性測定・表現型の解析を詳細に行い、この因子の機能を具体的に明らかにしてゆく。
|