公募研究
酸素発生型の光合成を行うシアノバクテリアにおいて、光を含む環境変化への遺伝子発現応答系の中枢には高度に保存された2成分制御系群が機能している。これらは明反応の機能状態と密接な関係をもって制御されるが、実際に検知されるシグナルをはじめ、制御系の実体には不明な点が多く残されている。本課題ではそのうち、シアノバクテリアに高度に保存された3種ヒスチジンキナーゼ(Hik2、Hik34、NblS)にフォーカスして機能解析を進めている。NblSは強光や低温ストレスへの応答性を持つことが知られているが、昨年度までの研究でチラコイド膜に貫通した複合体であるPSII周辺に局在することを示していた。今年度の研究ではNative PAGEによる複合体の分子量解析、さらにプルダウン法による共沈降タンパク質の解析よりPSIIタンパクのうちPsbA、PsbD、CP47と複合体を形成していることが判明した。これはNblSがPSIIアセンブリの中間体として知られるRC47複合体と結合している可能性を示唆するものである。一方、NblSシグナルの活性化を制御下流のhliA遺伝子発現でモニターする系を構築し、各種ストレスへの応答性を解析した。そして、PSII複合体に結合するプラストキノンから電子を受け取るジメチルベンゾキノン等の薬剤を培地中に添加することで、様々なストレスによるシグナル応答が消失することを発見した。これらの結果は、NblSがPSIIの部分複合体と結合してストレス検知複合体を構成していることを強く示唆するものと考えている。Hik2のセンシング機構についても解析を進め、N末端側GAFドメイン中に高度に保存されたCys残基が機能的に重要であることが示唆された。現在、このGAFドメインが何らかのリガンドに応答してキナーゼ活性化に関わると考え、対応するリガンドの探索を進めている。
2: おおむね順調に進展している
NblSの機能解析に関しては全貌解明にかなり近づいており、次年度中には論文発表まで達成できる見込みである。一方で、Hik2機能に関しては予想外の複雑性が明らかになってきた。当初はHik34とHik2は同じレスポンスレギュレーターであるRre1のリン酸化に関わるキナーゼと考えていたが、熱ショックに応答するキナーゼの本体はあくまでHik2であり、Hik34はこのHik2-Rre1のシグナル伝達を条件依存的に阻害する別経路であることが見えてきている。現在までにこのHik34経路をHik2経路から分離することができつつあり、今後はようやくHik2上流シグナルに迫る準備が整った状況にある。
最終年度の研究ではHik2によるシグナル感受を中心に解析を進める。これまでの解析でHik34はHik2-Rre1のシグナル伝達系の阻害因子を抑制していることが示唆されている。本研究ではこの阻害因子の作用が消失した変異株を既に取得しており、この株を用いてHik2の機能解析を単純化することができると考えている。これまでにHik2を活性化するリガンド候補は見出しており、これらに影響する変異株を用いてそれぞれの関与を調べていく。また、Hik2が一旦活性化されたのち、何らかの制御下流の遺伝子発現を介してHik2シグナルがクエンチされることを見出している。この下流の遺伝子の検索を行うことで、シアノバクテリアにおける熱ショック応答のフィードバック抑制機構の解明を目指す。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (8件)
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