研究領域 | 新光合成:光エネルギー変換システムの再最適化 |
研究課題/領域番号 |
19H04722
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
加藤 祐樹 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (10376634)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 光化学系II / プロトン共役電子移動 / 赤外分光法 / 分光電気化学法 / 時間分解赤外分光 / 酸化還元電位 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、光合成において光エネルギー変換を担う光化学系IIの電子伝達反応につき、プロトン駆動力による制御機構の解明を目的とするものである。光化学系IIでは、プロトン濃度が低下すると第二キノンQBの酸化還元電位Emが低下することが考えられる。その結果、第一キノンQAとの電子授受平衡がQA側にシフトして反応が抑制されることが想定される。本研究はこの電子伝達反応における制御機構を検証すべく、初年度にあたる令和1年度には、QAのEmのpH依存性をFTIR分光電気化学計測により調べた。その結果、pH5.5から6.5においてはほぼ同じ値を示したのに対して、7.0、7.5とpHが上がるにつれてマイナス側にシフトすることを明らかにした。この結果は、従来の酸化還元滴定による結果(Krieger et al., 1995)と異なるが、本研究では分光電気化学計測を行ったのに対して、過去の酸化還元滴定では酸素脱気を余儀なくされたためであると考えられる。 QA・QB間の電子伝達反応においては、時間分解赤外分光法により計測を行った。従来の蛍光法では、QA-に起因する蛍光強度を測定しており、間接的にQA-の状態をモニタしているだけであり、QBの状態は調べることができないなど問題がある。QA-に起因する1721 cm-1の吸光度変化とQB-に起因する1745cm-1の吸光度変化を追跡したところ、600 us程度の時定数を持つ反応が観測された。この結果は、初めて直接的にQA-からQBへ電子伝達反応を観測したものといえ、今後この手法を用いることにより、QA-からQBへ電子伝達反応のpH依存性を明らかにしていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
時間分解赤外分光法の適用により、初めてQA・QB間の電子伝達反応を直接的に観測できたことは大きな成果であり、今後の研究の進展が期待できる。また、QAのEmのpH依存性を明確に示すことができたことから、両手法を用いることにより、二つのキノン間におけるプロトン駆動力による制御機構の解明につながっていくことが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
1) QA・QB間の電子移動反応のpH依存性:時間分解赤外分光測定によりQA-およびQB-の時間変化を追跡して、QA-からQBへの電子移動反応の速度定数を求める。pH5~8において速度定数の変化を調べることで、プロトン濃度と電子移動速度の相関を明らかにする。 2) QBのEmのpH依存性:FTIR分光電気化学計測でQBに起因するスペクトルの電位依存性を測定する。ネルンスト解析により特に一電子還元における電位Em(QB-/QB)のpH依存性を詳細に調べることで、QBサイト周辺のプロトン化状態を明らかにする。 3) チラコイド膜を用いた光化学系IIにおける電子移動反応解析:FTIR法のサンプルへの適用範囲を広げるべく、チラコイド膜においても電子移動反応を測定できるようにする。
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