研究領域 | 新光合成:光エネルギー変換システムの再最適化 |
研究課題/領域番号 |
19H04723
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
宮下 英明 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (50323746)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 光合成 / 藻類 / 遠赤色光 / 順化 / プロトン駆動力 |
研究実績の概要 |
本研究では、一部の微細藻類が、遠赤色光のみの光環境下においてもプロトン駆動力を維持し生育・生残できる仕組みを「遠赤色光順化」と呼び、遠赤色光下における光エネルギー変換機能の最適化戦略とその多様性を解明することを目的としている。令和元年度には、遠赤色LED光のみで生育可能な微細藻類として琵琶湖およびその周辺から分離された緑藻3株、不等毛藻1株、造礁サンゴ骨格内から分離された糸状緑藻1株、計5株について、分子系統位置を決定し、白色光下および遠赤色光下で培養した細胞の色素組成および分光特性の比較によって、遠赤色光への順化・適応について検討した。その結果、琵琶湖の緑藻はいずれもヨコワミドロ目(Sphaeropleales)、不等毛藻はユーステイグマトス目(Eustigmatales)、糸状緑藻はアオサ目(Ulvales)にそれぞれ帰属することがわかった。白色光および遠赤色光下でそれぞれ培養した藻類細胞の吸収スペクトルを比較したところ、遠赤色光培養細胞のQy吸収は白色光培養細胞に比べ長波長側に広がっていた。ヨコワミドロ目およびアオサ目の藻類では光化学系アンテナが遠赤色光に順化したものと考えられた。一方、ユーステイグマトス目藻類では、白色光培養および遠赤色光培養の細胞の吸収スペクトルがほぼ一致していたことから、長波長光の吸収能は、適応によって獲得・固定されている形質であることがわかった。蛍光スペクトルの比較では、遠赤色光培養細胞では、光化学系II由来と考えられる蛍光が観察されなくなるか、光化学系I由来と考えらえる蛍光に比べて相対的に非常に弱くなっていた。このことから、遠赤色光順化に伴って光化学系におけるエネルギー伝達経路が大きく変化していることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度当初に計画した内容についてほぼ実施できでいる。さらに、クロロフィル組成の変動や呼吸系の関与の可能性など、当初は予想できなかった機能解明につながる新たな発見もあった。これらのことから、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度には、引き続き、遠赤色LED光を単一光源として生育可能な微細藻類の同定、各種光源で培養した細胞の、色素組成分析、分光分析を継続するとともに、遠赤色光順化におけるプロトン駆動力を維持する機構を明らかにする。具体的には、酸素発生活性の測定、パルス変調蛍光法(PAM)を用いた各種光合成測定、アンテナ色素の光吸収波長とエネルギー移動経路の変化、光化学系I/II量比の変化、光化学系タンパク質組成の変化を解明し、呼吸からの電子供給の可能性やサイクリック電子伝達の寄与の可能性を解き明かす。酸素発生活性の測定においては、2つの光条件で培養した細胞について、遠赤色光を含まない光源(白色LED)、遠赤色LED光源による酸素発生活性を測定し、酸素発生活性に与える遠赤色光順化の影響を明らかにする。また波長可変光源を利用して、各波長に依存した酸素発生活性の変化を明らかにする。パルス変調蛍光法を用いた各種光合成測定パルス変調蛍光法を用いて、プロトン駆動力形成機構の変化を明らかにする。光化学系I/IIの存在比測定マイナークロロフィル(Pheoa、Chla’)組成分析によって光化学系I/II量比を明らかにする。さらに、光化学系タンパク質組成の変化を明らかにする。これらの結果から総合的に判断し、遠赤色光順化におけるプロトン駆動力を維持する機構を明らかにする。
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