公募研究
集光性色素タンパク質(LHC)は、光エネルギーを捕集し、光化学系タンパク質(PSI、PSII)へと伝達する重要な役割を担う。LHCは光合成生物種間で多様であり、タンパク質構造の違いに加え、色素分子の種類や数の違いも見出されている。このようなLHCの広い多様性は、光合成生物の見た目の色の違いをもたらす。色の違いにより、励起エネルギー伝達機構も異なることが知られている。励起エネルギー伝達は様々な摂動により変化し、中でもpHによる変化は、色素分子周辺の構造変化が要因となり、色素間相互作用の変化よって生じると考えられている。光合成生物は光が強いと感じると、光阻害が起こる。光阻害が進行することによりチラコイド膜のルーメン側が酸性化される。このように生体内でもpH変化は容易に起こるため、pH変化による励起エネルギー伝達機構の理解は光防御機構を知る上でも重要な位置づけにある。本研究は褐色を呈する珪藻を材料とし、珪藻の特殊なLHCであるフコキサンチンクロロフィルタンパク質(FCP)のpH変化による励起エネルギー伝達機構の解明を目指す。珪藻のPSI-FCPI超複合体を用いて、pH5.0, 6.5, 8.0のそれぞれに順応させ、時間分解蛍光分光測定を行った。pH5.0において蛍光の減衰が促進された。さらに、pH変化により励起エネルギー移動経路の変化も観測された。酸性pHによって誘導されるエネルギー移動経路およびエネルギー消光の変化は、色素分子周辺のタンパク質構造変化に起因するのだろう。これらの結果を論文として纏めた。
1: 当初の計画以上に進展している
2019年度にPSI-FCPIにおけるpH変化による励起エネルギー伝達機構に関する論文がJournal of Physical Chemistry Lettersに採択された。別途、シアノバクテリアのPSIにおけるpH変化による励起エネルギー伝達機構に関する論文がJournal of Physical Chemistry Bに採択された。次のプロジェクトとして、FCP単体のpH変化による励起エネルギー伝達機構の挙動を観測した。光化学系タンパク質から分離されたFCPをpH5.0, 6.5, 8.0のそれぞれに順応させ、時間分解蛍光分光測定を行った。pH5.0にすることで蛍光減衰の促進および励起エネルギー移動経路の変化が観測された。これらはPSI-FCPIでの挙動と似ていた。上記の成果について、現在、論文を投稿しているところである。
2020年度中にFCP単体のpH変化による励起エネルギー伝達に関する研究成果を論文として纏める。現時点で論文を投稿しているため、今年度中の成果が見込まれる。珪藻は、中心目と羽状目という二つのグループに大別される。これまでは主に中心目珪藻のFCPについて研究してきた。昨年度から羽状目珪藻のFCPと光化学系タンパク質との超複合体の精製に取り組んでいる。本年度も引き続き、超複合体の精製に挑戦する。尚、研究計画の変更はなく、引き続き珪藻FCPにおいてpH変化と励起エネルギー伝達の関係を調べていく。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
J. Phys. Chem. B
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