研究領域 | 新光合成:光エネルギー変換システムの再最適化 |
研究課題/領域番号 |
19H04732
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
野口 航 東京薬科大学, 生命科学部, 教授 (80304004)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 光合成 / 絶滅危惧種 / 光環境 / 季節変化 / 過剰光エネルギー |
研究実績の概要 |
多摩丘陵の落葉樹林の林床に自生する常緑多年生草本タマノカンアオイは、少ない枚数の葉を春に展開させ、1年間利用している。そのため大きく変動する温度・光環境下で、葉の光合成系が維持されている重要性が高い。本研究では、(1) 高温で光強度の弱い夏期から低温で光強度が強い冬期まで、1年を通して有利ではない環境下で、葉の光合成がどのように季節変化するか、(2)タマノカンアオイの葉はCO2吸収速度が低く、過剰な光エネルギーを受けやすい。取り替えられない葉をどのように保護しているかを明らかにすることを目的とした。 鉢植えした個体を落葉樹の林床に置き、定期的に栽培環境とともに葉のガス交換・電子伝達パラメータの季節変化を測定し、葉の一部をサンプリングした。飽和光下のCO2吸収速度、Rubisco活性の指標であるA-Ciカーブの初期勾配、電子伝達活性の指標であるA-Ciカーブの最大値、光合成電子伝達速度はどれも夏は低く、秋・冬に増加した。一方、光合成系タンパク質は光合成速度ほど明確な季節変化は見られなかった。光合成速度が夏から冬に増加するとき、光合成タンパク質は量の変化とともに活性の変化も重要かもしれない。 過剰な光エネルギーの熱散逸を示すパラメータNPQが夏から秋・冬に増加した。NPQの増加には、PsbSタンパク質やキサントフィルサイクルの色素が関与する。夏から秋・冬にPsbS量が増加するとともに、アンテラキサンチンやゼアキサンチンの量が増加した。また冬には熱散逸に関与するβカロテンやルテインの量も増加した一方、夏に蓄積していた光捕集に関与するαカロテンやビオラキサンチン量は低下した。タマノカンアオイの葉では、生育場所の光や温度環境の変化とともに光合成系の色素組成が大きく変化し、光合成系が維持されていると考えられる。また、同じような生活史をもつオウレンを用いた研究も進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野外の植物を用いているので被食や天候変動の影響を受けるために、測定値にばらつきが大きいデータがあったが、目的とした測定は順調に行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
タマノカンアオイの葉を用いて、(1) クロロフィル蛍光、P700吸収、electrochromic shift測定から、光合成電子伝達系が夏に抑制され、冬に増加する現象がどのように制御され、どのような季節変化を示すかを調べる。また、その変化を支えている光合成電子伝達系の複合体やH+-ATPaseのタンパク質量を調べ、光エネルギーの吸収と還元力の消費の季節変化に対応した光合成電子伝達系の応答変化を明らかにする。 (2) 同じ常緑草本のオウレンを用いて、機器を用いた光合成系の測定から光合成系パラメータの季節変化を調べ、タマノカンアオイと比較する。それらにより常緑草本の葉の光合成系の応答の普遍性や多様性を明らかにする。
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