研究実績の概要 |
光合成電子伝達経路の1つである光化学系I (PSI) サイクリック電子伝達は光合成と光防御に必須である。しかし、分子レベルでの制御機構や制御の生理的意義に関する研究はあまり進んでいなかった。そこで本研究では、レドックス制御タンパク質であるチオレドキシン (Trx) の標的タンパク質がPSIサイクリック電子伝達に関わるPGRL1であることを明らかにし、その制御機構を分子レベルで解明することを目的に研究をおこなった。研究材料として用いたシロイヌナズナの葉緑体には5タイプのTrx (f, m, x, y, z) が局在している。 単離したチラコイド膜とTrxタンパク質を用いたin vitroの実験から、還元型のm型Trxが特異的にPSIサイクリック電子伝達を負に制御することを明らかにした。PGRL1のシステイン置換形質転換体を用いたin vivoの解析では、m型TrxがPGRL1の123番目のシステインとジスルフィド結合し、複合体を形成することによってPGR5/PGRL1依存のPSIサイクリック電子伝達を部分的に抑制することが明らかになった。またどのような条件でPSIサイクリック電子伝達が抑制または活性化されるかを調べるために様々な光条件で検討をおこなった。その結果、暗条件では形成されていたm型TrxとPGRL1の複合体が光照射によって一過的に解離することがわかった。これは光合成誘導期にPSIサイクリック電子伝達が活性化することを示唆した。これらの結果を論文として報告した。 さらに変異体の解析からf型TrxとPGR5/PGRL1依存のPSIサイクリック電子伝達が光合成誘導期に協調的に効率的な光合成の立ち上がりに寄与することを明らかにした。両方を欠損したシロイヌナズナの変異株では葉緑体のストロマが過還元状態となり光合成電子伝達が抑制されていた。この結果も論文として報告した。
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