研究領域 | 新光合成:光エネルギー変換システムの再最適化 |
研究課題/領域番号 |
19H04734
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
浅井 智広 立命館大学, 生命科学部, 講師 (70706564)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 光合成反応中心 / 緑色硫黄細菌 / メナキノン / 鉄硫黄クラスター / 電子移動 / 過渡吸収 / クライオ電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、光合成細菌のもつホモダイマー型のType-1(PS1 型)光合成反応中心である「RC1」において、メナキノン分子がどのような結合構造をもち、その構造状態が電子伝達機能にどのような影響をあたえるかを解明することを主たる目的としている。 フェムト秒レーザーによる超高速の過渡吸収スペクトルの解析により、緑色硫黄細菌のRC1において、メナキノン分子が媒介する電子移動反応の同定を試みた。緑色硫黄細菌のRC1では一次電子受容体クロロフィルからキノン分子への電子移動に帰属できる信号が観測された。その速度は、これまで考えられていた速度よりも極めて速く、初期電荷分離反応に匹敵することが分かってきた。一方、これまで末端電子受容体とされてきた鉄硫黄クラスターFXへの電子移動は全てのRC1分子で起こっているわけでなく、キノン分子で留まっているRC1分子が存在すると考えられた。これは、酸素発生型光合成の光化学系Iの立体構造では解釈できず、緑色硫黄細菌のRC1のメナキノン分子は、一次電子受容体クロロフィルと非常に近い位置にあること、酸化還元状態によって電子受容体の機能が変化することを示唆している。 高度に精製した緑色硫黄細菌のRC1分子をクライオ電子顕微鏡で観察し、高コントラストの画像を多数取得することに成功した。得られた画像を基に、単粒子解析により高分解能の三次元電子密度マップを作成し、立体構造モデルの構築を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
メナキノンが関わる電子移動反応は分光学的に同定できており、その反応特性を解析できる状態にある。クライオ電顕による構造解析によって高分解能の立体構造情報が得られており、メナキノンの結合構造を原子分解能で解明しつつある。当初の予定通り、メナキノンの分子構造や結合構造に、pHや部位特異的変異導入で摂動を与える研究を推進することで、光合成細菌のもつホモダイマー型光合成反応中心におけるキノン分子の構造と機能を解明できる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究の進捗状況を鑑み、本年度は研究内容を以下のA)緑色硫黄細菌RC1の原子分解能構造解析と、B)RC1内電子移動反応の解析に絞り、それぞれを個別に推進する。
【研究計画A】原子分解能構造解析を推し進める。既に電子密度マップが得られているクライオ電子顕微鏡の構造の精密化と高分解能化を進める。メナキノンとメナキノールのそれぞれの結合構造を解明する。
【研究計画B】緑色硫黄細菌のRC1内で起こる電子移動反応を過渡吸収分光法で追跡する。また光依存的なキノール生成をHPLCで分析する。pH依存性とともに外部電位依存性を解析し、メナキノンあるいはFXへ至る電子伝達経路の使用率を転移させる条件を調べる。酸化還元電位の滴定には、酸化剤と還元剤の溶液組成で電位を制御する古典的な手法の他、薄層電解セルとポテンショスタットを使った分光電気化学的な手法の測定を併用し、再現性の高い滴定結果を得る。
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