研究領域 | スクラップ&ビルドによる脳機能の動的制御 |
研究課題/領域番号 |
19H04745
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
西住 裕文 福井大学, 学術研究院医学系部門, 准教授 (30292832)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 発達期 / 神経回路形成 / 嗅覚 / 刷り込み / 臨界期 |
研究実績の概要 |
生物は個体や種の存続のために、遺伝的にプログラムされた先天的な本能を司る神経回路によって、餌の探索や仲間の識別、天敵からの回避などの判断を下している。しかしこれら先天的な情動や行動の指令も、幼少の環境に適応可能な時期「臨界期」に、外界からの嗅覚や触覚、聴覚などの感覚情報によって、脳内の神経回路に変化が生じ、生涯に渡って影響されることがある。このような現象を「刷り込み」として、百年以上前にローレンツ博士らが報告している。卵から孵化した直後のアヒルが最初に見た動く物体を親と認識し、追従するようになる例は、視覚から得られた「刷り込み」である。また、サケは、幼魚のときに嗅覚で川の環境を「刷り込み」され、産卵時期になると、自分が生まれ育った川の匂いを辿り、遡上することが知られている。しかしこれらの研究では、どのような分子基盤で臨界期が定められ、どのような感覚情報で脳内の神経回路が変更され、刷り込みが成立するのかについて、ほとんど未解明である。 我々は長年、マウス嗅覚系を用いて研究を行い、嗅覚神経回路を形成する分子機構などを明らかにしてきた。その過程で、例え先天的に「嫌い」な匂いであっても、臨界期に嗅がせておくと、成長後もその匂いが「好き」に変化するという、嗅覚による刷り込み現象がマウスにも存在することを見出した。そこで、この匂い刷り込みが、いつ、どのような仕組みで行われるかについて、分子・神経回路レベルで解き明かすことを目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスの嗅覚を介した刷り込みの仕組みについて、分子レベルで理解することを目指している。本年度は、これまでの研究成果をまとめ、論文の形にして投稿するところまで漕ぎ着けたので、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究成果をまとめ、論文を現在投稿中である。その論文の中で我々は、新生仔期の嗅覚刷り込み記憶に誘引的質感を付与するためには、オキシトシン分子が重要であることを主張している。しかし査読者らは、我々が行った「オキシトシンの鼻腔内投与によって、オキシトシン欠損マウスの嗅覚刷り込み記憶障害が回復する」という実験だけでは不十分であると指摘してきた。そのため、オキシトシンを腹腔内あるいは脳室内へ投与するという別法も試す。更に、オキシトシンがどこで作用しているかを明らかにするために、部位特異的なオキシトシン受容体欠損マウスを使って、刷り込み記憶におけるオキシトシンの役割について、詳細に調べ直す。
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