研究領域 | スクラップ&ビルドによる脳機能の動的制御 |
研究課題/領域番号 |
19H04759
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
加藤 総夫 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (20169519)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 全身炎症 / 扁桃体中心核 / 痛み誘発適応的神経可塑性 / 最後野 / 炎症性疼痛 / マイクログリア / lipopolysaccharide / TLR4 |
研究実績の概要 |
痛みの慢性化の本態は,初期傷害とその後持続する侵害受容によって生じる脳内痛みネットワークの適応的変化である,傷害にともなって不可避的に生じる炎症が,脳内の広汎な領域に分布し「痛み」の負の情動や痛覚過敏,自律神経・内分泌適応などの症候に関わる痛みネットワークにおける「スクラップ」をどのように誘発し,その後の病的適応状態を「ビルド」するのか,その過程の解明を目指した.この目的のため,(1)全身性炎症によって生じる腕傍核-扁桃体シナプス伝達増強のシナプス機構の同定,および,(2)長期全身性炎症疾患モデルにおける血管から脳への炎症情報シグナリング機構について研究を進めた. (1)全身の侵害受容情報が収斂し痛みの諸症候の発現に関与する扁桃体中心核(CeA)ニューロンに及ぼすlipopolysaccharide (LPS) 腹腔内投与の影響を検討した.LPS投与後,下肢痛覚過敏,CeA局所回路を介した多シナプス性抑制性応答の減弱,および,CeA-PAG投射ニューロンの発火特性および光刺激誘発シナプス応答の変化が生じた.これらの変化はCGRP-cre (calca-cre)マウスでは顕著ではなく,CGRPが扁桃体炎症誘発可塑性に必須の因子である可能性が示唆された.Fos-TRAP法と免疫組織化学染色法を組み合わせ,炎症と疼痛のいずれによっても活性化するCeAニューロンの存在を認めた. (2)慢性炎症のモデルとして,コラーゲン誘発関節炎モデルを作成した.自発性運動・環境温嗜好性の変化,血中IL-6およびIL-1b量増加が,関節炎症の持続とともに生じた.このとき,最後野のIba-1陽性活性化マイクログリアの数・容積の増加,ならびに形態複雑化が生じた.これら活性化マイクログリアはIL-1bを高発現していた.最後野-腕傍核系が全身炎症による扁桃体活性化を介在しているという仮説が支持された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LPSおよびコラーゲン誘発関節炎症モデルを用いた研究を進めている.腕傍核-扁桃体シナプス伝達の特異的活性化の目的で,CGRP-creマウス(calca1-creマウス)を用いた特異的ChR2発現の実験を進めていたが,このマウスの低CGRP産生が,炎症関連可塑性の発現に影響を及ぼしているかもしれないという,それ自身本研究課題の推進にとって興味深い現象が示唆された.さらに研究を進めて得られる結論の精度を高める可能性につながったと考えさらにFos-TRAPマウスの導入など,多様な方法を取り入れて取り組む契機となった.
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今後の研究の推進方策 |
(1) LPSによる最後野-腕傍核-扁桃体-中脳水道周囲灰白質系の可塑的変化に及ぼすプロスタグランジン産生阻害,エンドカンナビノイド産生阻害,および,CGRP受容体遮断の影響を検討する.(2)慢性炎症によって活性化した最後野マイクログリアから,腕傍核に投射する最後野ニューロンを介した腕傍核へのシグナル伝達機構を検討し,炎症性疼痛におけるその可塑的変化を検証する.これらを通じて,全身性炎症がどのようなシグナル系を介して扁桃体痛みネットワークの「スクラップ開始」を指示し,その後の「ビルド」を導くのか明らかにする.
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