研究実績の概要 |
炎症が中枢ネットワークの可塑的変化を介してシナプス伝達や行動に影響を及ぼす機構を解析し下記を明らかにした. 1.全身炎症の脳内活性化の可視化:FosTRAP法を応用し,全身炎症によって活性化する「炎症活性化脳内ニューロン」を可視化するとともに,光遺伝学,および,化学遺伝学の手法を用いてこれらのニューロンの興奮性を介入的に操作する技術を確立し,最後野・孤束核,腕傍核,扁桃体の一部に適用した.酢酸腹腔内注射,大腸炎モデル,口唇部炎症などによって活性化する腕傍核・扁桃体中心核のニューロンは必ずしも重複せず,身体の部位や炎症の状況に依存して,脳内の異なるニューロン集団によってその身体状況が表象されその応答を形作る可能性が示された. 2.全身炎症による危機回避回路シナプス効率の変容:lipopolysaccharide腹腔内投与によって生じさせた急性全身性炎症が,腕傍核,扁桃体系を活性化する事実を見いだした.さらに,この活性化が,扁桃体中心核内の亜核群ニューロン間のシナプス伝達を可塑的に修飾し,扁桃体中心核から中脳水道周囲灰白質へのシナプス伝達を亢進する事実を見いだした(Sugimura et al., 投稿準備中). 3.炎症性疼痛による集団の社会的階位の脱安定化:共同飼育マウスは安定した社会的地位関係を形成し,それが,前頭前野~扁桃体系によって制御されている事実が示されている.社会階位最高位のdominantマウスの炎症性疼痛によって,同マウスの地位が下降するだけではなく,集団全体の階位構造が攪乱される事実を見いだした(Ibukuro et al., 投稿準備中). これらの成果により,生存や社会性に関与する脳内の神経回路が,炎症によって可塑的な変化を示し,危険な内的および外的状況に対しての情報処理および危機回避的行動を促進する可能性が示された.
|