条件反射のパラダイム確立および条件反射成立後の消去過程の変化観察 パラダイム作成 ; 応募者の研究室で発見されたショウジョウバエのフィーディング・ニューロンを要とする摂食神経回路に着目すると 、単一細胞レベルでパブロフの条件反射に伴うシナプス可塑性を解析することができる。パブロフの実験では、イヌの摂食行動(エサが無条件刺激)にベルの音などの条件刺激を連合したが、行動実験をシナプスの観察と同時に行う為には、一匹のハエを定位した状態でパブロフのイヌが示したような条件刺激への反応の変化を起こさせる必要がある。 米国マサチューセッツ大学およびMITにおいて応募者が主宰する研究室のポスドクであった櫻井晃博士(現在、当研究所主任研究員。応募者の研究協力者として共同研究を続けている)と共に、”あらかじめハエに持たせておいた棒を離す”という条件刺激を、口吻へのショ糖水溶液の刺激(無条件刺激)による摂食行動に連合する条件反射の新規パラダイムを作成することに成功した。この実験パラダイムにおいて、条件刺激をくりかえすことによって条件付けによって形成された反応が次第に弱くなることを確認した(論文revise中)。 細胞発火のCa2+イメージングによる新しい神経回路形成の確認; 応募者が開発したライブ実験系を利用し、フィーディング・ニューロンのメインの幹部分でCa2+イメージングをしながら、確立した条件反射実験を行った。その結果、条件付け成立後には、条件刺激のみによってフィーディング・ニューロンが発火することをGCaMP6mの蛍光増大として観察した。これは、条件反射成立にともない、新しい神経回路が形成されたことを意味する。さらに、このフィーディング・ニューロンの活動も、条件刺激を続けると減衰することを観察した。本研究により、記憶消去の過程についても、そのしくみを解析する道が開けた。
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