動物の体は、胚発生時に各々の組織で細胞が正確なタイミングで分裂、分化、移動することにより形成される。つまり動物胚の内部には胚発生の進行度を正確に測る時計機構が存在し、その時間情報を指標に発生速度をコントロールしていると考えられるがその分子実態は不明のままでああった。そこで本研究では、発生過程の速度を制御する分子機構を解明する為に、胚が透明でありイメージング解析に優れ、発生速度が異なるゼブラフッシュとターコイズキリフィッシュの両種を用いて、エネルギー代謝経路の観点から発生速度制御機構の解明を行なった。研究成果1:エネルギー代謝動態可視化システムの作製:小型魚類モデルであるゼブラフィッシュとキリフィッシュを用い、蛍光レポーターを用いて代謝動態を可視化・定量化するシステムを構築した。研究成果2:速度コントロールホルモンの発見:発生速度制御機構解明の手がかりを得る為にキリフィッシュの休眠現象に注目した。キリフィッシュはアフリカ原産の卵生メダカであり、短い雨季に一時的に現れる池に生息する。このような特殊な環境下に適応するために、ターコイズキリフィッシュは胚発生途中で休眠することができる。私は発生速度が完全にゼロになる休眠現象に発生速度制御機構の鍵があるのではないかと考え、我々や他のグループが発見したキリフィッシュの休眠を制御するホルモンの胚発生過程における役割を調べた結果、その濃度に比例してキリフィッシュ胚全体の発生速度が変動することを発見した。驚いた事に休眠ホルモンはキリフィッシュだけでなく、その濃度依存的にゼブラフィッシュ胚の発生速度をも制御することを発見した。本研究成果はほとんど分かっていなかった胚全体の発生速度を制御する内因的な時計機構の分子メカニズムに迫る独創的な研究であり、現在その分子詳細を解明し論文の作成、投稿を目指している。
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