研究領域 | 脳構築における発生時計と場の連携 |
研究課題/領域番号 |
19H04772
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
瓜生 耕一郎 金沢大学, 生命理工学系, 助教 (90726241)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 分節時計 / 数理モデル / 同期 / ゼブラフィッシュ |
研究実績の概要 |
発生時計を理解するには、組織変形や細胞配置の変化に起因する遺伝子発現リズムの振る舞いの変化を解明する必要がある。本研究課題ではゼブラフィッシュ体節形成に着目し、未分節中胚葉組織が変形していく中での分節時計の細胞間再同期過程を、数理モデルとイメージングデータによって解析する。
2019年度は (1)組織形状変化と細胞形状変化のモデル化、(2)Delta-Notch変異体の細胞間結合強度の推定、および (3)細胞内分節時計遺伝子制御ネットワークのモデル化に取り組んだ。(1)では、細胞を楕円体で表現し、組織の変形速度場に応じて楕円体の長軸および短軸の長さの変化を記述する、というモデルを構築している。しかし現在のモデルでは、変形にともなった細胞の配置換えをうまく記述できていないため、組織の変形速度場の記述方法をさらに検討し、より生体組織の状況を正確に表すことができるようにする予定である。(2)では、野生型およびDelta-Notchヘテロ変異体の実験データに対して位相振動子モデルをフィッティングすることで、それぞれの遺伝子型での細胞間結合強度を推定した。(3)では、(2)で得られたDelta-Notch 変異体の再同期過程の表現型を分子レベルで説明するため、分節時計遺伝子制御ネットワークを時間遅れ微分方程式系でモデル化している。前述のようにいままでのモデルでは、細胞内の遺伝子発現リズムは位相振動子を使い現象論的に記述していた。DeltaおよびNotch タンパク質の発現量は、振動子間の結合強度を変化させると予想できるが、それをより陽的に記述し、野生型と変異体を比較するために、分節時計遺伝子制御ネットワークのモデル化に取り組んだ。Deltaタンパク質合成にかかる時間遅れや、Notch細胞内ドメインのプロモーターに対する解離定数に対する依存性を数値シミュレーションで調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Delta-Notch変異体の細胞間結合強度を、位相振動子モデルを使い見積もることができた。また分節時計遺伝子制御ネットワークのモデル化や細胞間相互作用に内在する時間遅れの影響についての数理解析を進めることができた。これらについて引き続き解析を行う予定である。その一方で2019年度中に組織変形を記述するモデルを構築する予定であったが、グローバルな変形とローカルな細胞再配置の関係性を適切に速度場として記述することが難しく、納得のいくモデルを作ることができなかった。2020年度はこれまでの結果に基づいて、組織形状変化のモデリングを改良していく。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の結果をふまえ、研究計画に基づき次の課題に取り組んでいく。(1) 組織形状と局所的遺伝子発現パターン形成の関係性: 組織形状は位相方程式の境界条件を定めることで、遺伝子発現パターンに影響を及ぼしうる。この二つの関係性を明らかにし、さらに組織形状が時間発展していく場合に、分節時計遺伝子発現パターンがどのように変化するかを明らかにする。 (2) Delta-Notchシグナルに内在する時間遅れの影響: Delta-Notchタンパク質による細胞間相互作用では、これらの膜タンパク質の合成および膜輸送に時間がかかるため、シグナル伝達に時間遅れがあることが知られている。すなわち受け取ったシグナルは、数十分前の周りの細胞の状態を反映している。2019年度に引き続き、この時間遅れの長さが、再同期過程に及ぼす影響について数理モデルで詳細に解析する。 (3) 異なるDeltaタンパク質の機能解析: ゼブラフィッシュの分節時計の同期では、複数のDeltaタンパク質が機能している。特にDeltaDタンパク質は、その発現にはリズムが見られないが、細胞間カップリングに必須であることが知られている。またDeltaDタンパク質の発現量が高くなると、再同期までにかかる時間が短くなることが実験により報告されている。このメカニズムを、構築した数理モデルを使い明らかにする。ホモ変異体とヘテロ変異体の再同期過程の表現型を数理モデルで説明することで、DeltaDタンパク質の役割を解明する。 (4) ゼブラフィッシュ胚イメージングデータの解析: 研究協力者と共同で、ゼブラフィッシュ胚ISHデータの解析および分節時計遺伝子のライブレポーターのイメージングデータの解析に取り組む。数理モデルから予測されたvortexパターンが生体組織内で実際に形成されているかどうかを、渦度を計算することで検証する。
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