腸の蠕動運動は、胃から送られてきた内容物の消化吸収に欠かせない生命機能であり、そこでは「第2の脳」とも呼ばれる腸神経系の関わりも知られている。蠕動運動とは局所的な収縮が一定のリズムで起こり、かつその収縮が腸軸に沿って進行波として伝播するなど、まさに「時計機能」を有した高次生体システムである。しかしその時計を支える細胞機能の実体については、腸神経機能も含め未解明の部分が多い。本研究では、蠕動運動の時計機能とその成立機構を明らかにすべく、特に蠕動運動の発信源(起点)の成立と収縮波の伝播パターンに注目して、そのしくみを理解することを目的とした。 成果としては、ニワトリ胚の腸をモデルとして、蠕動運動にみられる振動進行波の起点マップを作成した。結果、振動の起点は個体間でほぼ一致しており、このことから発生中の腸における蠕動運動は遺伝プログラムによって制御されている可能性が示唆された。胚性の腸は摂餌による内容物の影響を除外できるため、細胞が本来有する蠕動運動機能を詳細に解析できる良いモデルであり、これらの起点マップの意義は高いと期待される。事実、我々が作製した起点マップをもとにして、「本来起点ではない」領域にオプトジェネティクス法により異所的な蠕動運動を惹起させるという新たな方法論の開発を進めることができた。さらにGCaPM遺伝子を用いて腸の中胚葉性細胞内のCa2+濃度変化を可視化する技術にも着手した。本研究をとおして、蠕動運動の確立機構研究に新たな道筋を示すことができた。
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