マウス胚は着床前の発生において、2段階の細胞分化を行い3種類の細胞からなる嚢胞状の胚盤胞を作る。1回目の細胞分化では栄養外胚葉と内部細胞塊が分化し胞胚腔を持った初期胚盤胞になり、2回目の細胞分化では内部細胞塊がさらにエピブラストと原始内胚葉へと分化し後期胚盤胞になる。この2回の細胞分化はいずれもHippoシグナルによって制御されているが、両者の間でそのシグナル活性が変化する。本研究では、2回目の細胞分化においてHippoシグナル活性が変化し、YAPが細胞質から核へと移行する仕組みについて解析し、以下の点を明らかにした。発生過程の核の形態を定量的に解析したところ、核は初期胚盤胞の内部細胞塊では丸く、YAPの核移行がみられる中期胚盤胞では扁平化していた。核の扁平化は胞胚腔の拡大と相関しており、核扁平化の要因として1回目の細胞分化で作られた栄養外胚葉細胞による胞胚腔の膨張力の関与を考えられた。実際、中期胚盤胞の胞胚腔にシリコンオイルを顕微注入して胞胚腔をさらに拡大させたところ、核の扁平率が増加してYAPの核移行が増加し、多能性因子SOX2の発現上昇が見られた。逆に、中期胚盤胞の胞胚腔から胞胚腔内の液体を吸引して胞胚腔を縮小させたところ、核の扁平率が低下してYAPの核移行が低下した。これらの結果は、1回目の細胞分化で作られた栄養外胚葉が作り出す胞胚腔の膨張力という場の情報が2回目の細胞分化でYAPの核移行を促進してエピブラストへの分化を促進することを示唆するのもである。その一方で胞胚腔の操作によるYAPの変化は発生過程におけるYAPの変化程顕著ではなく、2回目の分化ではYAPのリン酸化や一部のHippo経路因子の低下も見られることから、発生過程では、力の作用に加えて、細胞の分化などに伴うHippoシグナル制御の変化が、協調的に作用して、YAPを制御していると考えられる。
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