研究実績の概要 |
我々は生体や器官のサイズを決定する分子メカニズムについて研究を進めており、そのモデルとして鳥類の神経管を使用している。その方法として、ともに近縁でありながらサイズが大きく異なるニワトリ胚とウズラ胚神経管のサイズの比較を行うことにした。 まず、様々な発生過程の神経管断面を単離し、そのサイズ、前駆細胞数、神経細胞数の変遷を比較した。その結果、ニワトリ胚にくらべてウズラ胚では神経前駆細胞の分裂速度がおそく、より多くの前駆細胞が神経細胞へと分化していた。 次に、ニワトリ胚とウズラ胚から神経管を取り出し、その細胞に発現する遺伝子をRNAシーケンス法によって解析したところ、発現量が両種で異なる遺伝子が約2,000種類同定され、さらにその中には転写因子やシグナル因子が多数含まれていた。このうち、Sox型転写因子Sox14はウズラ胚で発現量が高く、サイズ決定の一因となっていることが示唆された。 神経管における発現領域をin situハイブリダイゼーションによって調べたところ、Sox14は神経前駆細胞や分化した神経細胞の一部などに発現していた。次に、Sox14をニワトリ胚神経管に大量導入すると細胞分裂が抑制され、神経管の分化が促進された。一方、siRNAによってSox14の発現量を減弱したところ、前駆細胞の発現領域が拡大した。また、Sox14は転写活性化因子として働くことが示唆された。 以上の結果から、前駆細胞の細胞分裂の速度、前駆細胞・神経分化のバランスの違いがサイズの違いに結びついていることが示唆された。
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