私たちはこれまでに、既知の発生メカニズムでは説明のつかない臓器の扁平化を起こすhirame(hir)変異体の分離・解析から、原因遺伝子YAPが(1)組織の3次元化と(2)各々の組織の配置を統御、(3)YAP-メカノホメオスターシスの分子メカニズムにより、3次元臓器を構築する新しいメカニズムを見出した。前公募研究において、我々は、新たなYAP-メカノホメオスターシス候補分子として、ARHGAP11Aを見出した。ARHGAP11AはYAPによりその発現を直接制御されている。一方、ARHGAP11Aは通常核に局在するが、細胞質に移行するとHippo経路を介してYAP活性を抑制する。つまりYAPとARHGAP11Aは負のネガティブフィードバックループを形成していることを見出した。しかしながら、このループの生理的意義不明であった。そこで、ARHGAP11Aが細胞質で相互作用するタンパク質を網羅的に解析したところ、微小管関連特に、1次繊毛に関わるタンパク質を相互作用分子候補として多数見出した。そこで、ARHGAP11Aが細胞質において、1次繊毛の形成または分解のどちらに関与するか、そこで、ARHGAP11Aを過剰発現させ、1次繊毛の数を計測したところ、対照群に比べ増加した。また、siRNAを用いてARHGAP11Aのノックダウンを行い蛍光免疫染色を用いて1次繊毛の数を計測した。その結果、ノックダウン細胞は対照群に比べ有意に1次繊毛の数が減少した。さらに、ノックダウン細胞を用いてRNAシークエンスを行ったところ、細胞周期の亢進、1次繊毛を負に制御するPlk1およびNek2の遺伝子発現が上昇していた。これらの結果から、ARHGAP11Aは細胞質に移行すると1次繊毛形成を促進するとともにYAPの活性を抑制し、細胞増殖を抑制する働きがあることが明らかとなった。
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