研究実績の概要 |
これまでの研究で、発達過程での神経軸索形態や軸索投射の制御を担う軸索ガイダンス分子の細胞内情報伝達機構を解析し、低分子量G蛋白質の1つR-Rasの活性が様々な外界因子の駆動で共通に制御され、R-Rasの軸索内での活性制御が軸索形態制御において普遍的役割を果たしていることを明らかにした。その後、ガイダンス因子以外にも、神経成長因子や細胞接着因子によっても神経細胞内のR-Ras活性調節が駆動されることが明らかにされ、R-Rasは神経細胞を取り囲む外界因子のシグナルハブと位置づけられる。外界シグナルがR-Rasにシグナル統合された後、キナーゼ系、細胞骨格制御系、物質輸送系などの中核を担う様々なエフェクター分子に分配され、軸索形態が多角的に調節されている。近年、我々はR-Rasが担う個々の細胞内機能の責任分子の同定に注力してきた。細胞骨格制御系の責任分子の1つとして、アクチン足場形成を担う蛋白質であるafadinを同定しており、afadinは大脳皮質培養ニューロンにおいて、そのC末端のF-actin結合ドメインを介したアクチン足場構築を介し、軸索分枝形成を担う(MBoC., 2012)。その後、afadin にはC末端の有無の大きな違いの長短の選択的スプライシングが存在し、それらの発現量が神経細胞発達過程で変化し、短いバリアント (S体) が長いバリアント (L体) に対してドミナントネガティブ体として働くことで、L体の細胞膜での集積によるアクチン足場形成を阻害し、負の調節を行うことを報告した(MBoC., 2015)。それを踏まえ、「選択的スプライシングが脳構築の場で時空間的に制御され、afadinの各アイソフォームの発現が制御されることで、的確な神経分化・神経回路形成が引き起こされている」という新奇システムの存在を想定し、その機構の解明並びに可視化と操作を目的とし研究を進めた。
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