公募研究
神経幹細胞(Radial glia:RG)は分裂軸の乱れによって、分裂面が脳室面から外れると、一方の娘細胞がapical endfoot を失う。神経幹細胞の増殖期には、この娘細胞は極性を再生し、失ったapical process を伸張することを最近見出した)。その先端にはカドヘリン等の上皮接着帯の構成成分を全て持ち合わせた接着斑が伸張と同時に形成され、細胞膜成分の補給によって脳室面に到達し次第(aipcal 面)、上皮接着構造に加わり、apical endfoot を再構築する。今年度はその分子メカニズムを明らかにすることを目標に置いた。この仕組みが上皮ー間葉転換に類似していることから、そこで機能していることが知られているβ2インテグリンのノックダウンを神経発生早期(分裂期から初期神経発生期)に試みたところ、RGの再生能が阻害された。また、β2インテグリンの輸送やリサイクルに関与していることが知られているRas型small GTPaseであるR-Rasの活性型を再生能をすでに失っている神経発生盛期(E14)に発現させると、endfootの再生能が復活したことから、R-Rasおよびβ2インテグリンがこの再生能に必須であることが判明した。これらは、失われたapical endfootが再生する際にapical極性が再形成され、そこに膜成分が集積および、伸張しつつあるendfootの側面ででの接着等に寄与していると考えられる。また、Notchの活性もendfootの再生能に寄与していることが判明した。これらのepistasis(遺伝的上下関係)を調べたところ、Notch活性が最上流にあり、おそらく、Notch →R-Ras→β2インテグリンという過程が再生能に機能していると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
哺乳類の進化の過程で大脳の飛躍的な複雑化・巨大化が進行してきた。脳回を持つ大脳(複雑脳と呼ぶ)の形成過程では、齧歯類には見られない新たな神経幹細胞層が神経発生期に形成され、大脳皮質の巨大化、特に、表層の神経層の発達に重要な役割を果すに至る。対称分裂期の神経幹細胞は高い上皮構造の再生能力を持ち、幹細胞が上皮構築を再生することを発見した。この上皮構造再生能は神経発生期には減衰してゆく。この減衰は、複雑脳の発生過程で脳室帯の幹細胞が足を抜いて移動し、外幹細胞帯を形成するためには必須なメカニズムである。本研究では、(1)マウスを用いて、神経幹細胞の持つ上皮構造再生能とその経時変化のメカニズムを解明する。(2)複雑脳を持つフェレットをモデル系とし、複雑能の幹細胞も対称分裂期には高い上皮再生能を持つこと、この再生能が神経産生期に減衰することが新しい幹細胞帯の形成に必須であるという仮説を検証する。この(1)の部分にNotch →R-Ras→β2インテグリンという経路が働くことを明らかにできた。Notchは経時的に減衰してゆくので、そのことが再生能の喪失の原因であると考えられる。以上のように、これまでの目標は順調に達成している。
マウスを用いて、増殖期の幹細胞が上皮再生能を保持する分子機構、細胞生物学的なメカニズムを明らかにする。再生途のapical processの先端の接着斑は伸長の足場として働いていると考えられる。増殖期において、分裂軸のランダム化によって幹細胞からendfootを失わせるmInscの発現と同時に、接着斑の構成成分Plekha7等の接着関連因子のmRNA抑制やdominant negative型の発現を行い、幹細胞からのapical endfootの再生率を計測し、この接着斑の必要性と役割を明らかにする。また、またこれらの知見を元に、ヒトオルガノイドやフェレットを用いて、oRGの形成の開始のタイミングが複雑脳で決定されていることを実証する。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件)
Nature Cell Biology
巻: 22 ページ: 26 37
10.1038/s41556-019-0436-9
Nature Communications volume
巻: 10 ページ: 2780
10.1038/s41467-019-10730-y
Development
巻: 146(15) ページ: -
10.1242/dev.174243