研究実績の概要 |
本年度は、細胞がいつ未分化性の維持から分化へ、更には形態変化へと進行していくのか、時間的な制御機構を解析した。 1)昨年度までにBETファミリータンパク質(BET)の阻害剤(JQ1)で、マウス胚盤胞を処理すると発現低下する遺伝子を網羅的に同定していた。本年度は、網羅的な解析結果についてmRNAおよびタンパク質レベルで検証した。結果、Nanog以外にも、Otx2, Sox2,Pramel7などエピブラスト系譜で発現する遺伝子群が、JQ1処理で低下していた。また、発現低下した遺伝子群とSTAT3経路との関連性が示唆されたことから、核内活性化型STAT3に対してBETがどのように働いているのか、核内活性化型のリン酸化STAT3の局在を詳細に解析した。その結果、JQ1処理によって核内のリン酸化STAT3の発現が低下することが分かった。更に、JQ1処理によるリン酸化STAT3とNanogの発現低下は、LIFを過剰に投与しても回復できなかった。これらに結果は、BETがエピブラストの未分化性維持に関して、STAT3リン酸化より上流のレベルで働いていることが強く示唆された。 2)昨年度までに、GRHL3タンパク質の核から細胞質への移動を制御する分子が、表皮細胞への分化、その後の細胞形態変化を誘導しているという仮説を立てている。この仮説のもと、GRHL3と生化学的に相互作用する分子を質量分析法にて同定していた。本年度は、同定した分子の細胞内局在を、MCF7培養細胞及びES細胞から分化させた表皮細胞で検討した。その結果、結合分子は、GRHL3の細胞質内での局在とよく合致していた。更に、本分子を培養細胞でノックダウンさせると、GRHL3は、細胞質でなく核内に分布するようになることが分かった。これらの結果は、同定した結合因子が、GRHL3の細胞質への移動に働くことを示唆している。
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