研究領域 | ネオ・セルフの生成・機能・構造 |
研究課題/領域番号 |
19H04801
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
堀 昌平 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (50392113)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 免疫寛容 / 自己免疫疾患 / 制御性T細胞 / 組織特異性 |
研究実績の概要 |
我々は、ヒト自己免疫疾患IPEX症候群モデルマウスであるFoxp3<A384T>変異マウス(以下A384Tマウス)において皮膚、肺などのバリア組織選択的に2型炎症が惹起されることを見出した。本研究では、A384Tマウスが他のFoxp3変異マウスと異なり、なぜ組織選択的な自己免疫疾患を発症するのかを明らかにするために、この変異によって制御性T細胞(Treg)のTCRレパトアに組織選択的欠損(穴)が生じるためにこれらの組織においてのみ免疫寛容が破綻して炎症が惹起されるという仮説を立てた。この仮説を検証するために、単一のTCRb鎖を発現するA384Tマウスを交配により樹立し、Tregおよび通常型T細胞(Tconv)のTCRa鎖のレパトア解析を行うことにした。昨年度、TCRb鎖固定の有無に関わらず炎症が起こる組織に大きな違いは見られなかったものの、TCRb鎖を固定したA384Tマウスにおいて皮膚炎が選択的に重症化する個体が存在することを見いだした。本年度、この皮膚炎の重症化が、①1型炎症の選択的な亢進によること、②交配の過程で混入したH-2kハプロタイプに依存し、元のH-2bハプロタイプではこのような1型に偏った激しい皮膚炎は起こらないことを見いだした。以上の結果は、MHCハプロタイプがFoxp3<A384T>変異とエピスタティックに相互作用することで皮膚炎が重症化することを示しており、MHCハプロタイプの違いによりTCRレパトア選択が影響を受けることで炎症の組織選択性が規定される可能性を示唆している。 また、本年度はH-2b背景のA384Tマウスにおける主要な標的臓器である肺に着目し、TCRb鎖を固定したA384Tおよび野生型マウスのTregおよびTconvにおいて、scRNA&TCR-seq解析により単一細胞における遺伝子発現とTCR配列の同時計測を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のように、本年度の研究により、MHCハプロタイプがFoxp3<A384T>変異とエピスタティックに相互作用することで皮膚炎が重症化することが明らかになった。自己免疫疾患のGWAS解析により疾患感受性遺伝子としてMHC遺伝子の特定のハプロタイプとCTLA4やIL2RAなどのTreg関連遺伝子が同定されている。MHCはTCRレパトア選択において中心的な役割を担うことから、特定のMHCハプロタイプによるTCRのレパトアの偏りとTregの異常のエピスタシスにより自己免疫疾患の組織選択性が規定されている可能性が考えられる。H-2kハプロタイプとFoxp3<A384T>変異の相互作用による皮膚炎増悪のメカニズムを解明することで、自己免疫疾患の組織選択性を規定するメカニズムの解明の一助になることが期待できる。 また、今年度、新学術領域研究「先進ゲノム支援」の援助を得て、A384Tマウスおよび野生型マウス肺のTregとTconvのscRNA&TCR-seq解析を行い、TCR配列と遺伝子発現の同時解析を行った。現在データ解析を進めているが、この解析により本研究の仮説の検証が進むと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
現時点では皮膚炎の重症化にFoxp3<A384T>変異とH-2kのみで十分であるのか、TCRb鎖の固定も必要であるのか不明である。そのため、H-2k背景のTCR<WT> Foxp3<A384T>マウスの病態解析を行う。また、TCRb鎖を固定したH-2k/k, k/b, b/b背景のA384Tマウス皮膚においてTregおよびTconvのTCRレパトア解析を行い、皮膚炎の重症化に紐付いて頻度が変化するTregとTconvクローンを同定し、その抗原特異性を検討する。 また、scRNA&TCR-seq解析データを解析し、当初の仮説の妥当性を検討するとともに、Foxp3<A384T>変異により細胞のTCR特異性と表現型(遺伝子発現)の結びつきがどのように変化するのかを明らかにする。
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