我々は、ヒト自己免疫疾患IPEX症候群モデルマウスであるFoxp3<A384T>変異マウス(A384Tマウス)において皮膚、肺などのバリア組織選択的に2型炎症が惹起されることを見出した。本研究では、自己免疫疾患の組織選択性を規定するメカニズムを明らかにするために、A384T変異によって制御性T細胞(Treg)の組織特異的自己抗原を認識し2型炎症を抑制するTregサブセットが選択的に欠損するためにこれらの組織において炎症が惹起されるという仮説を立てた。この仮説を検証するために、科研費新学術領域研究『先進ゲノム支援』プログラムによる支援を得て、Tregおよび通常型T細胞(Tconv)の遺伝子発現とTCR配列を単一細胞レベルで計測した。単一のTCRβ鎖を発現する野生型(WT)マウスとA384Tマウスの肺からTreg及びTconvを単離し、scRNA & TCR-seqにより解析を行った。その結果、(1) WT Tregでは遺伝子発現状態が異なる複数のエフェクター・クラスターが存在すること、(2) 変異Tregでは特定のエフェクター・クラスターが欠損していること、(3) WT Tregでは、変異Tregで欠損しているエフェクター・クラスターに選択的に発現してクローン増殖したTCR配列(クロノタイプ)が存在すること、(4) 変異TregではそれらのTCRクロノタイプがクローン増殖していないこと、がわかった。これらの結果から、A384T変異は特定のTregクローン(おそらく組織選択的抗原に特異的なTCRを発現するクローン)のクローン選択を障害してエフェクターTregの不均一性を低下させ、2型炎症を抑制するサブセットを選択的に欠損させることが示唆された。
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