研究領域 | ネオ・セルフの生成・機能・構造 |
研究課題/領域番号 |
19H04805
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
杉田 昌彦 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 教授 (80333532)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 抗原提示 / MHC / リポペプチド |
研究実績の概要 |
アカゲザルMHCクラスI分子(Mamu-B*098, Mamu-B*05104)はミリスチル化ウイルスタンパク質に由来するN末端リポペプチドフラグメントを結合し、これを特異的に認識する細胞傷害性T細胞を活性化する。これらのMHCクラスI分子は小胞体膜に発現したペプチドトランスポーター(TAP)の機能に依存することなく細胞表面に発現することから、従来のペプチド提示MHCクラスI分子とは異なる内因性リガンドの存在が推定された。本年度、分泌型のMamu-B*098分子に結合したリガンドの液体クロマトグラフィー/マススペクトロメトリー解析により、内因性リガンドとしてリゾリン脂質群を同定した。さらに、リゾリン脂質(あるいはその基本骨格となるモノアシルグリセロール)を結合したMamu-B*098およびMamu-B*05104複合体のX線結晶構造を解明し、リゾリン脂質リガンドの結合様式を明らかにした(J Biol Chem 誌に発表)。ついで、リポペプチド提示分子の発現を制御する分子群を同定する目的で、Mamu-B*05104-IRES-CD8を安定発現したK562細胞株を樹立し、CRISPR/Cas9ノックアウトライブラリーを導入した。Mamu-B*05104の細胞表面発現が顕著に低下した細胞群を単離し、その遺伝子解析を行なった結果、HOMER1遺伝子の変異を同定した。その作用機序解明に向けて、必要ツールの作出に着手した。また個体レベルでのリポペプチド免疫研究を促進する目的で、Mamu-B*05104トランスジェニックマウスおよびMamu-B*05104/Nefリポペプチド複合体を特異的に認識するT細胞受容体(TCR)を独立に樹立し、その交配によりダブルトランスジェニックマウス系統の樹立を完了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)リポペプチド提示MHCクラスI分子の内因性リガンドの同定と複合体の結晶構造解明に成功し、目標の一つを達成した。 2)リポペプチド提示MHCクラスI分子の発現を制御する候補因子を拾い上げたが、その詳細な機能解明には至っていない。 3)困難が予想されたMamu-B*05104/TCRダブルトランスジェニックマウスの樹立に成功し、次年度に向けた個体レベルでのリポペプチド免疫研究の基盤が構築できた。
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今後の研究の推進方策 |
リポペプチド提示MHCクラスI分子の発現を制御する分子群の同定とその機能解析については、実験系の確立に成功しているので、独立した複数回のトライアルを計画している。その過程で抽出された遺伝子群についての検証を行なっていく。Mamu-B*05104/TCRダブルトランスジェニックマウスは、交配により匹数を増やすとともに、細胞レベルと個体レベルでの免疫検証を進める。Mamu-B*05104/Nefリポペプチドテトラマーを活用し、特異的T細胞の特質(マーカー分子の発現、サイトカインプロファイル等)を決定する。ウイルス感染に伴う時空間的挙動を明らかにするとともに、自己免疫の視点からの解析を進める。これらの解析結果を統括し、従来のペプチド免疫とリポペプチド免疫の相違を明らかにする。
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