研究領域 | ネオ・セルフの生成・機能・構造 |
研究課題/領域番号 |
19H04817
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
伊藤 美菜子 九州大学, 生体防御医学研究所, 准教授 (70793115)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 制御性T細胞 / 脳梗塞 |
研究実績の概要 |
様々な中枢神経系関連疾患では自己免疫寛容が複雑に関与している。多発性硬化症や抗NMDA受容体抗体脳炎などはもちろんのこと、パーキンソン病やアルツハイマーなどの神経疾患と慢性炎症やHLAなどの免疫系の関連性が報告されている。また、自閉症や統合失調症と、HLAによる疾患感受性との関連も強く示唆されている。中枢神経系における自己免疫を制御する機構、すなわち制御性T細胞による抑制機構・自己免疫寛容の解明は、様々な中枢神経系疾患の治療・予防法の開発においても重要な課題である。 本研究の目的は脳Tregを誘導する脳由来自己抗原を同定し、脳抗原特異的な脳Tregを増殖させることによって、自己免疫疾患や慢性炎症による様々な中枢神経系疾患の制御機構や自己免疫寛容の確立機構を明らかにすることである。 本年度は、脳Tregを誘導する新しい抗原(ネオ・セルフ)を同定するために、まずはシングルセルソートにより脳TregのTCRを絞り込み、TCR発現ハイブリドーマを作製した。脳破砕液中の抗原を提示させ、脳抗原反応性TCRを探索した。まずは脳梗塞モデルを用いて解析するが、EAEモデル、アルツハイマーモデルなどへ拡大させる。最終的には複数の脳Treg誘導抗原を同定し、脳梗塞後炎症や、他の免疫の関与する中枢神経疾患の治療・予防に効果的なワクチンを作製する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脳梗塞急性期、亜急性期にはマクロファージを中心とした自然免疫細胞が脳内に浸潤して炎症の遷延化、神経症状の悪化を引き起こす。また、脳梗塞慢性期マウスの脳内には急性期よりもはるかに多くのT細胞が浸潤しており、特に制御性T細胞 (Treg) が大量に蓄積する。脳TregはAregやIL-33受容体を発現するなど組織Tregの性質も有しているが、脳特異的な性質も示していることを以前に報告した。多発性硬化症モデル(EAE)やアルツハイマーモデルマウスにおいても同様の性質を示すTregの存在を確認した。EAEモデルは脊髄と脳の両方に病態を形成するが、脊髄と脳に存在するTregのフェノタイプは異なっており、EAEマウスの脳に存在するTregはEAEマウスの脊髄Tregより脳梗塞の脳Tregの特徴に近かった。これらの結果より、組織Tregは病態よりも局在する組織の環境によって性質を獲得している可能性が示唆された。また脳TregのTCRレパトア解析から、脳Tregは脳梗塞による組織障害によって放出される何らかの抗原を認識して活性化すると考えられるため、TCRをクローニングし、ハイブリドーマに発現させ、脳破砕物によってハイブリドーマに発現したTCRを刺激すると、いくつかのクローンでIL-2の産生が認められた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は脳梗塞後のT細胞、B細胞のシングルセルレパトア解析を行い、TCRとBCRから抗原を絞り込む方向で進めていく。まずは脳梗塞モデルを用いて解析するが、EAEモデル、アルツハイマーモデルなどへ拡大させる。 また、抗原特異的Tregを用いて免疫寛容を誘導することで脳内慢性炎症関連疾患、中枢神経系自己免疫疾患の新規治療につながることが期待される。まず病態モデルマウスの脳内より炎症細胞(ミクログリア、マクロファージ、T細胞など)をFACSで単離して活性化状態、および各種サブセット解析を行う。脳梗塞時と同じネオ・セルフを認識するT細胞の存在を確認する。さらにTh17やTregのレポーターマウスとの交配を行い、TregやTh17細胞を可視化する。脳梗塞慢性期の研究と同様にTregがEAE、アルツハイマーや自閉症の感受性を変更できるか、できるとすればTregが何を認識し、どのような因子を介しているのかを明らかにする。その病態が自己抗原、ネオ・セルフの免疫によりそのように変化するのか、脳内炎症の抑制、組織修復をもたらしているかを検討する。 最終的には複数の脳Treg誘導抗原を同定し、脳梗塞後炎症や、他の免疫の関与する中枢神経疾患の治療・予防に効果的なワクチンを作製する。
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