研究領域 | ネオ・セルフの生成・機能・構造 |
研究課題/領域番号 |
19H04821
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
秋山 伸子 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 上級研究員 (60342739)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 胸腺上皮細胞 |
研究実績の概要 |
胸腺髄質に局在する上皮細胞(以下、髄質上皮細胞と略)は、自己免疫疾患の発症抑制に必要な抗原提示細胞である。核内因子Aireは髄質上皮細胞による自己抗原の発現を制御する。我々は髄質上皮細胞の分化と機能を制御する機構に関する研究の過程で、髄質上皮細胞において自己抗原の発現を誘導し、自己免疫を抑制する新たな転写因子を同定した(転写因子Xと略)。本研究課題は、転写因子Xによる自己抗原の発現誘導機構を明らかにすることを目的とする。 我々は転写因子Xを胸腺上皮細胞特異的に欠損できるFoxn1-Cre:X-Flox/Floxマウス(以下cKOマウス)を自家作成した。RNA-seq解析の結果から、転写因子XがAire+成熟髄質上皮細胞とは異なる細胞集団において、独自に自己抗原の発現を制御していることを明らかにした。一方、転写因子Xを胸腺上皮細胞特異的に欠損したマウスにおいて、肝臓、腎臓に顕著な免疫細胞の浸潤および自己抗体の上昇が検出され、自己組織に対する免疫応答が生じていた。Aire欠損マウスにおいては顎下腺、涙腺、網膜、胃などの炎症が顕著であり、転写因子Xの欠損マウスとは炎症の起こる組織が異なる。以上の結果は、転写因子XがAireとは異なる機構により自己免疫寛容を誘導することを示している。 本年度は、転写因子Xの欠損により上昇する自己抗体価のエピトープとなるネオ・セルフ抗原の同定を試みた。Rag1マウスより採取した筋肉の組織を用い、二次元電気泳動を行い、転写因子X欠損マウスの血清が認識する抗原についてMS解析を行った。その結果、筋肉からMyh1やKrt2といった抗原が検出された。これらの抗原は、転写因子Xを欠損した胸腺上皮細胞で発現が低下していた。この結果は、胸腺上皮細胞における転写因子Xが、筋肉の組織特異的抗原を発現制御することにより、免疫寛容を誘導する可能性を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
転写因子Xの欠損により自己抗原エピトープとなるネオ・セルフ抗原を同定に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
計画1. 転写因子Xが結合するゲノムDNA配列を決定する。採取出来る胸腺上皮細胞数が限られるため、培養細胞を用いてXの過剰発現を行い、クロマチン免疫沈降法を用いて転写因子Xが結合するゲノムDNA領域を同定する。胸腺上皮細胞培養株に転写因子Xを過剰発現して、細胞を回収・膜透過処理後、特異的抗体(およびコントロールIgG)反応を行う。ProteinA/Gに結合したMicrococcal Nucleaseで処理することにより、抗体が結合した部分のDNAを切断・抽出し、次世代シークエンサーによりその配列を決定する。RNA-seq解析の結果と照らし合わせ、転写因子Xが標的遺伝子の転写開始点 (TSS)に近い領域に結合するのか、あるいはTSSから遠い領域(イントロンも含めて)に結合するのか決定する。 計画2. 転写因子Xが活性化するゲノムDNA領域を同定する。cKOマウスおよびコントロールマウスより、mTECのフラクションを分取し、ATACseqを行う。オープンクロマチン領域を次世代シークエンスにより同定する。計画1のChiP解析の結果と合わせて、転写因子Xが結合し、活性化するゲノムDNA領域を決定する。 計画3.転写因子XおよびAire二重欠損マウスについて自己免疫応答を検討する。 胸腺上皮細胞の免疫寛容誘導において、転写因子 X と Aire が冗長的に働く可能性を考え、X と Aire を二重欠損するマウスの作成した。この二重欠損マウスについて、自己免疫応答、胸腺上皮細胞における発現解析を行う。
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