研究領域 | ネオウイルス学:生命源流から超個体、そしてエコ・スフィアーへ |
研究課題/領域番号 |
19H04823
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
藤岡 容一朗 北海道大学, 医学研究院, 講師 (70597492)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | インフルエンザウイルス / 細胞内カルシウム |
研究実績の概要 |
これまでに申請者は、ある一定数以上の粒子数のインフルエンザウイルスが細胞に曝露するとインフルエンザウイルス感染が爆発的に広がる現象を見出している。また、本研究においてに20粒子以上のウイルスに曝露された細胞では、細胞内カルシウム濃度が上昇すること、および20粒子以下の 場合は細胞内カルシウム濃度は変化しないことを明らかにし、粒子数の多寡で細胞応答が劇的に変化することを見出した。すなわち、少数のウイルス粒子感染時にはカルシウムシグナル非依存的な感染メカニズムが存在すると考えられる。また、インフルエンザウイルスの感染成立をモニターするためのレポーター遺伝子を作製し、そのレポーターを安定的に発現する細胞株を樹立した。この細胞を用いることで、生きた細胞においてウイルス感染成立を評価することが可能になった。今後は、少数のウイルス粒子に曝露された際に感染成立する細胞と成立しない細胞の違いを明らかにするために、細胞内カルシウム濃度上昇を生じないにも関わらず感染成立した細胞を分取して1細胞解析を行い 、その感染成立メカニズムを解明する。また、ウイルス粒子を細胞に曝露する際、ウイルス様粒子(Virus like particle)存在下では感染効率が上昇することも見出した 。このことから、ウイルスRNAを含まない不完全な粒子が感染成立に寄与することが示唆された。すなわち、多数のウイルス粒子の中に感染性を有する粒子が一つ存在する、もしくは複数の粒子が協調してはじめて感染が成立するという2 つの仮説が立てられるため、今後どちらの仮説が正しいか検証を行う。 以上により、我々が日々の生活を営む「現実の世界」で生じるウイルス感染現象の理解を目標とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の計画の一つは、ヒト上皮細胞株を用いたex vivoの系を用いた検証であった。実際に、細胞内カルシウム濃度をモニターするカルシウムセンサーを恒常的に発現するヒト気道上皮細胞株 BEAS-2B 細胞を樹立し、マトリゲルを用いた三次元培養により気道上皮を模倣する単層構造を形成する系を用いて細胞応答を検証したところ、ex vivoの系においてもインフルエンザウイルスの曝露により細胞内カルシウム濃度上昇が認められた。また、1 細胞あたり20粒子以上のウイルス曝露により細胞内カルシウム濃度上昇が認められるが、20粒子以下の場合は変化は認められなかった。さらに、昨年度に行う実験として計画されていた通り、ウイルス感染成立を生きた細胞で検出するレポーターの作製を行った。当初、赤色蛍光タンパク質を用いたレポーター安定発現細胞株の樹立を試みたが、ウイルス感染成立を検出することはできなかった。しかし、蛍光タンパク質をGFPに変更したところ安定発現株を得ることができた。そこで、細胞内カルシウム応答は赤色蛍光タンパク質をベースとしたセンサーを用いることでウイルス感染成立とカルシウム応答の同時評価可能な系を構築した。昨年度に構築した系を用いることで、少量のウイルス粒子曝露時に感染成立する細胞を分取することが可能となり、非感染細胞との比較を行うことで、カルシウムシグナル非依存的な感染成立メカニズムを解明できると期待される。以上から、概ね順調に研究が進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに20粒子以下のインフルエンザウイルスに曝露された細胞では細胞内カルシウム濃度は変化しないにも関わらず、一部の細胞で感染が成立することを明らかにしたことから、少数のウイルス粒子に細胞が曝露される状況(我々の生きる現実世界での感染超初期段階)では、これまでに我々が発見した細胞内カルシウム濃度上昇に依存する細胞侵入様式以外のメカニズムで細胞侵入が生じることが示唆された。そこで、本年度はウイルスレポーター遺伝子とカルシウムセンサーを恒常的に発現する細胞株を用いて、少数のウイルス粒子が曝露した際に、細胞内カルシウム濃度上昇が生じないにもかかわらず、感染成立する細胞をセルソーターで分取する。感染成立細胞と非成立細胞間で、遺伝子発現パターンやタンパク質発現パターン等を比較することで、感染成立細胞に特徴的な性質を見出すとともに細胞侵入に鍵となる因子を同定し、感染超初期過程での感染成立メカニズムを明らかにする。また、ウイルス粒子を細胞に曝露する際、VLPをウイルス粒子に混ぜると感染効率が上昇することも昨年度中に見出した。すなわち、多数のウイルス粒子の中に感染性を有する粒子が一つ存在する、もしくは複数の粒子が協調してはじめて感染が成立するという2 つの仮説が立てられる。そこで本年度は、どちらの仮説が正しいか検証を行う。 以上を明らかにすることで、「現実の世界」で生じるウイルス感染現象の理解を目標とする。
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