ウイルスは効率よく子孫ウイルスを標的細胞に感染させるため、宿主に寄り添って(寄り添うフリをして)、感染に有利な環境になるのを宿主内でじっと待つ(潜伏 感染)。そして、宿主を裏切り、ウイルス粒子の産生(溶解感染)を起こす。 全人口の90%以上が感染しているEpstein-Barrウイルス(EBV)を主な研究対象として、周囲の環境が感染細胞の運命決定(潜伏感染を継続するか溶解感染へ移行するかなど)に、どのような影響を及ぼすかを解析した。 1) EBV初感染時の一時的な不完全溶解感染 B細胞にEBVを感染させ、RNAseq解析を実施したところ、感染直後にウイルス産生に関わる遺伝子群が一時的に発現していることが確認出来た。しかし、RNAseqは集団での遺伝子発現を捉えるスナップショットに過ぎず、各細胞でどのような変化が起きているのかという情報は得られない。そこで、組換えウイルスを用いたFate mappingにより、直接的に感染細胞の運命を追えるシステムを開発し、EBVが感染すると、直後に一旦溶解感染遺伝子を発現してから潜伏状態となるということを世界に先駆けて証明した。 2) EBVのcell-free感染を促進する代謝産物 EBV感染のダイナミクスを経時的に追い、 EBV感染の広がりを数理モデル化する過程の中で、振とう(shaking)を行うと培養上清中に増加する因子によりEBVのcell-free感染が促進することが明らかにした。この因子を同定するため、メタボロミクス解析を実施し、2つの代謝産物を責任因子として同定した。EBVのcell-free感染が促進されるメカニズムを今後詳細に解析することで、周囲の環境がEBV感染に与える影響を明らかにしていきたい。ウイルス感染の理解には、ウイルスと宿主の単純な関係ではなく、より複雑な関係を理解する必要があることが本研究より示唆された。
|