研究領域 | ネオウイルス学:生命源流から超個体、そしてエコ・スフィアーへ |
研究課題/領域番号 |
19H04834
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
牧野 晶子 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 助教 (30571145)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ウイルス進化 |
研究実績の概要 |
ボルナ病ウイルス(BoDV)は、核内に持続感染するRNAウイルスである。RNAウイルスは変異率が高いため、ゲノムに変異を蓄積しながら急速に進化をしていく。 しかしながら、BoDVは進化過程でゲノムに変異をほとんど蓄積していない。例えば1997年にウマから分離された株と2016年のヒト分離株の配列は99%一致する。本 研究は、BoDVがゲノムに変異を蓄積しない感染メカニズムを解明することで、その進化戦略を明らかにすることを目的とした。 これまでに、BoDVの変異率は1.21 x 10-4と他のRNAウイルスと同様に高く、RNA-seq解析によりBoDV感染細胞内ではウイルスゲノムに変異が入っていることを明ら かにした。そこで「BoDVのゲノムRNAは、感染細胞内で多様な集団を形成するが、核内複製競争によりゲノム配列が収斂するためにほとんど進化をしない」という 仮説にたどり着いた。この仮説を検証するため、感染細胞内で検出された変異を持ち赤色蛍光色素を発現するウイルスを5株作製して、緑色蛍光色素を発現する野 生型のウイルスとそれぞれ競合させ、適応度を算出した。作製した5株のうち1株は野生型よりも高い適応度を示し、仮説と矛盾した。野生型よりも高い適応度を 示す配列が集団の中で優位にならないメカニズムを検討するため、BoDVの感染動態を模したコンピューターシミュレーションを用いてその要因を探索した。 また、BoDVがゲノム配列を安定に保つ意義を検討するため、RNA依存性RNAポリメラーゼの正確性に影響を与える部位に変異を入れたウイルスを作製し、ラットへ 接種した。その結果、変異を導入した組換えウイルスは培養細胞内では野生型ウイルスと同様の増殖性を持っていたが、ラットに対しては高い致死性を示した。 このことから、BoDVはゲノム配列を安定に保つことで、個体に感染を維持している可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ウイルスのRNAポリメラーゼの忠実度に関わる領域に変異を入れたウイルスの病原性を評 価する実験をおこなう予定であったが、ウイルスに復帰変異が入るためクローニングが必要となり、実 験をすすめることができなかった。しかし次年度には目的の組換えウイルスの人工合成に成功して解析に供することができた。
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今後の研究の推進方策 |
BoDVの感染動態を模したコンピューターシミュレーションの条件検討をおこなうことで、変異を蓄積しない特徴を規定する因子を明らかにする。
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