研究領域 | ネオウイルス学:生命源流から超個体、そしてエコ・スフィアーへ |
研究課題/領域番号 |
19H04836
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
兵頭 究 岡山大学, 資源植物科学研究所, 准教授 (80757881)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 植物ウイルス / 植物免疫 / 免疫制御因子 / MAPキナーゼ |
研究実績の概要 |
環境中において植物は、ウイルス・真菌・細菌を含む、多種類の病原・非病原性微生物叢との相互作用によってその生理状態が規定される。本研究では、このような「エコスフィアー」における、植物ウイルスのレギュレーターとしての役割の解明を目的とする。研究代表者は、red clover necrotic mosaic virus (以下、RCNMV) をモデルウイルスとして、植物ウイルスが抗糸状菌/抗細菌免疫応答に対し、それぞれ正/負に作用するという極めて興味深い現象を見出した。このことは、ウイルスが植物免疫システムへの干渉を介して他の微生物による植物への感染を制御する「植物/微生物生態系恒常性のレギュレーターである」可能性を示唆する。本仮説を実証し、その普遍性・特異性の解明を目指す。 これまでの研究から、RCNMV感染葉で見られるキチン(糸状菌由来免疫エリシター)誘導性MAPK活性化の増強は宿主足場タンパク質RACK1 (receptor for activated C kinase 1) に依存することが明らかとなった。RCNMVの複製酵素タンパク質p27はRACK1と相互作用し、RACK1とMAPキナーゼとの複合体形成を促進した。本現象の普遍性・特異性を明らかにするため、RCNMVと系統学的に近縁のトムブスウイルス科に属するウイルスの種々の複製酵素タンパク質がキチン誘導性MAPK活性化に及ぼす影響を解析した。その結果、興味深いことに、キチン誘導性MAPK活性化を (i) 促進するもの、 (ii) 抑制するもの、 (iii) 影響を与えないもの、の3パターンが見られた。以上の結果から、植物ウイルスが植物免疫に対して及ぼす影響は実に多様である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的の達成に向けて着実に前進しており、概ね順調であると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
トムブスウイルス科に属するウイルスに焦点を当て、植物ウイルスによるMAPKカスケード撹乱を支配する分子機序の解明を目指す。このために、トムブスウイルスの複製酵素タンパク質と相互作用する宿主因子をアフィニティー精製画分の質量分析解析によって同定し、それらのキチンあるいはフラジェリン(細菌由来免疫エリシター)誘導性MAPK活性化における役割を解析する。並行して、RCNMVと共通の植物因子に作用する可能性を検証するため、RACK1の関与を検討する。RCNMVとの比較解析を通じて、ウイルスが、植物の抗糸状菌/抗細菌免疫応答に及ぼす影響の分子メカニズムに迫る。
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