研究領域 | ネオウイルス学:生命源流から超個体、そしてエコ・スフィアーへ |
研究課題/領域番号 |
19H04837
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
入江 崇 広島大学, 医系科学研究科(医), 准教授 (70419498)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | RNAウイルス / センダイウイルス / 不完全ウイルス / 欠損ウイルスゲノム / 自然免疫 / 持続感染 / 急性感染 |
研究実績の概要 |
様々な感染症で、感染者の体内に多くの不完全ウイルス(様)粒子が存在する場合のあることが知られているが、その発生メカニズムに対する理解やその発生をコントロール可能な実験系の欠如などから、その発生の意義についてはほとんど解明されていない。申請者らは、センダイウイルス(SeV)をモデルにQuasispeciesを形成しているウイルスサンプル中から複数のウイルスを単離し、その性状を解析することで、RNAウイルス感染で見られる不完全ウイルス粒子の一つであるコピーバック型欠損干渉(DI)粒子を発生するウイルスクローン(cCdi)の単離に成功し、DI粒子を産生しないクローン(cC)との比較から、DI粒子の発生が、ウイルス複製中に生じた変異によるものであることを明らかにした(Yoshida, J Virol 2018)。これまでに、急性感染性RNAウイルスにおいて、DI粒子の発生と培養細胞系での持続感染の関連が数多く報告されている。そこで、cC及びcCdi感染による持続感染性について検討したが、いずれも単独では持続感染を成立させることはできなかった。一方、これらのクローンを単離した元のウイルスサンプルを様々な動物培養細胞に感染させると、殆どの細胞は死滅するが、わずかに生残細胞細胞が生じ、この細胞は長期に渡って継代維持が可能であった。また、上記クローンについて様々な感染条件で同様の実験を行ったが、持続感染細胞を得ることはできず、上記クローンを鶏卵で19代継代することで、サンプル中のウイルスの多様性を高めたサンプルを用いた場合に持続感染細胞を得ることができた。いずれの持続感染細胞も、感染性のウイルスを産生していたがDI粒子は産生しておらず、この細胞から持続感染性ウイルスクローンの単離及び責任変異の決定に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス発生による動物実験実施の制限などから、動物実験での解析に遅れが生じた。一方で、当初はDI粒子産生性ウイルスと非産生性ウイルスを用いて、DI粒子発生の意義を検討する予定であったが、これに加えて、感染性を保持したまま持続感染性を獲得したSeVクローンの単離に世界で初めて成功し、ウイルス増殖中に偶発的に発生する変異によって、DI粒子産生性に加え、持続感染性が獲得されたウイルスが生じ売ることが明らかとなった。この新たに得られた持続感染性ウイルスの性状解析に時間を要したため、予定していた実験計画に変更が生じた。今後は、上記2種類のウイルスがウイルス増殖中に偶発的に発生した場合に生じる影響を、培養細胞及びマウスを用いて検討していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
当初本研究では、我々が単離に成功したDI粒子非産生SeVクローン(cC)及びDI粒子産生性クローン(cCdi)を用いて、ウイルス増殖中に偶発的に生じる変異によるDI粒子発生がウイルス増殖に与える影響を検討することを目的としていた。この研究過程で、ウイルス増殖中に偶発的に生じる変異により、さらに急性感染性のSeVが持続感染性を獲得し得ることが明らかとなり、持続感染性クローンの単離に成功した。今後は、これらのウイルスを利用して、獲得した性質の分子メカニズムの解明をすすめるとともに、ウイルス増殖中に偶発的にこれらのウイルスが生じた場合をシミュレートした実験を培養細胞及びマウスを用いて行い、その影響を検討していく予定である。また、得られた結果を元に、培養細胞及びマウスでのウイルス感染動態をシミュレートした数理モデルを構築し、上記の特異な性質をもったウイルスの発生がウイルス感染動態に及ぼす影響を検討していく予定である。
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