公募研究
実データの背後に潜む法則性や基本原理(本計画では、インフルエンザウイルスの「進化ルール」)を知るためには、実データを生み出すシステムの非線形ダイナミクスを知る必要がある。膨大な組み合わせの進化経路を全て実験解析から探索し、「進化ルール」を見つけ出すことは不可能であるが、計算機実験と進化理論による大規模な擬似配列データ解析を援用することで達成される。また、「ネオウイルス学」前期に申請者らが実施した研究により、インフルエンザウイルスの進化は抗原決定基(特にA及びB)に蓄積される変異が主な駆動力になっている可能性を見出している。さらに、抗原決定基及び非抗原決定基をコードする配列を別々に準備し、描いた2つの進化系統樹を比較した。その結果、非抗原決定基配列の系統樹であってもいわゆる“インフルエンザの系統樹”のトポロジーを維持することを発見した。興味深いのは、宿主免疫の標的になっていないにも関わらず、非抗原決定基にインフルエンザウイルスの進化の歴史が同様に刻まれている点である。この反直感的な発見に「進化ルール」が内包されている可能性がある。そこで、準備した抗原決定および非抗原決定基それぞれの配列に対して、正の自然選択を受けたサイトの検出を行い、さらに、相互情報量とDirect-coupling methodを組み合わせることで、共進化している可能性があるサイトを多角的に探索した。
1: 当初の計画以上に進展している
大量の配列情報を扱う場合、例えば、バイオインフォマティクスの帰納的アプローチを用いれば、現在得られている配列から系統関係や祖先配列の推定を行うことが可能である。しかし、このような情報統計学的手法はケーススタディの特徴づけが主であり、配列データを生み出したメカニズムにまで言及できない上に、対象の配列が経てきた進化経路の普遍性に言及することは難しい。この様な現状にブレークスルーをもたらすために、実データを生み出すシステムの非線形ダイナミクスを捉える配列進化シミュレータを開発できた。また、シミュレータには機械論的な数理モデルが内包されていることより、実データの背後に潜む法則性や基本原理を抽出できることも特筆すべきである。
配列進化シミュレータから生成したA/T/G/Cの4文字からなる疑似配列を利活用して、ウイルスと宿主の共進化を分析していく。膨大な組み合わせの進化経路を全て実験解析から探索し、「進化ルール」を見つけ出すことは不可能であるが、計算機実験と進化理論による大規模な擬似配列データ解析を援用することで達成されると予想される。以上のような学術的な特色と独創性を併せもつアプローチによりインフルエンザウイルスの「進化ルール」を読み解く事ができれば、コンピュータによる流行株予測が実現する、と予想される。この成果は、翌年のインフルエンザの流行株予測につながることより、感染症制御という観点から社会医学研究に貢献するという重要な意義がある。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
Journal of Biological Chemistry
巻: 295 ページ: 800-807
10.1074/jbc.AC119.010366.
Journal of Theoretical Biology
巻: 479 ページ: 29-36
10.1016/j.jtbi.2019.07.005.