鳥インフルエンザウイルスと水禽類との共生メカニズムは不明である。本研究では、ヒト適変異であるPB2-627Kを野外で維持しつつ特異に進化を続ける中東域の鳥インフルエンザウイルスと鳥類との関係性を「亜共生」と位置づけ、典型的なアジア域の鳥インフルエンザウイルス(「共生」ウイルス)と異なる進化動態にあると仮設を立てて研究を展開する。「共生」および「 共生」ウイルス間には、鳥細胞機能の利用や相互作用の様式に相違があると想定される。 本研究の目的は、「共生」ウイルスと「 共生」ウイルスが鳥細胞での複製動態において相互作用または利用する遺伝子制御機構や細胞機能の差異を免疫沈降 法やトランスクリプトーム解析により検知することを糸口として、鳥インフルエンザウイルスと水禽類との共生メカニズムを明らかにすることである。 本年度は、同定したウイルスポリメラーゼに直接結合する鳥細胞因子群がウイルス複製に与える効果を引き続き評価した。CRISPER-Casシステムを用いて標的因子をノックアウトした細胞の樹立を試みたが、ヒトやマウスと異なり、鳥ゲノム配列情報が限定的であることと、利用可能な鳥由来細胞株のガイドRNA導入効率が高くないことが原因となり、最終的にノックアウト細胞の樹立に至らなかった。 またウイルスポリメラーゼに結合しないが共生に関わる遺伝子制御機構については、共生ウイルスと亜共生ウイルス群間で発現量が異なる極めて多様のホスト遺伝子を検知したために、解析手法を検討した。まず、全体を網羅的にパスウェイ解析することを検討したが、顕著に異なるパスウェイを検知できなかったため、現在特定の遺伝子に着目してその作用機序を解析している段階にある。
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