研究領域 | ネオウイルス学:生命源流から超個体、そしてエコ・スフィアーへ |
研究課題/領域番号 |
19H04845
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
村田 和義 生理学研究所, 脳機能計測・支援センター, 准教授 (20311201)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 巨大ウイルス / 電子顕微鏡 / 構造 |
研究実績の概要 |
本研究では、巨大ウイルスにスポットを当て、その構造および形態を、主に電子顕微鏡(電顕)を用いて分子レベルで解析し、既知のものと合わせて比較分類することによって構造学的に系統進化をたどる。 ①「トーキョーウイルス(TkV)」の構造解析:本解析には、大阪大学超高圧電顕センターの1000kV超高圧クライオ電顕を用いたが、データ収集を開始した直後の6月に発生した大阪北部地震のため、装置が利用できなくなった。このため、それまでに記録した約400枚の画像で解析を行った。マップをさらに精密化処理した結果、分解能が1.6 nmから1.4nmに向上し、巨大粒子を構成する新規な仕組みを明らかにすることができた。TkVのメジャーキャプシドタンパク質(MCP)はミドリゾウリムシに寄生したクロレラに感染する巨大ウイルスPBCV-1のそれと相同性が高いことから、この構造モデルからTkV MCPのホモロジーモデルを作製し、得られた電顕マップにフィットさせた。結果、TkVのMCPはその長いループが粒子外側の大きなドメインを構成していることが新たにわかった。 ②「メドゥーサウイルス(MedV)」の構造および粒子形成過程の解析: MedVのクライオ電顕構造解析、および粒子形成過程の形態解析を行った。マップの精密化処理の結果、DNAが詰まったFullとDNAのないEmpty粒子についてそれぞれ約2 nm分解能の粒子構造を得ることができた。結果、本ウイルスでは、他の巨大ウイルスで見られるような発達したマイナーキャプシドタンパク質(mCP)がほとんど見られず、内膜のタンパク質がMCPと同じ配列構造を示すことから、内膜とMCPが直接相互作用することによって粒子が形成された可能性が示唆された。 以上の結果から、これらの新規の粒子構造は、ゲノム系統樹とは異なる近縁関係を示すことが明らかになってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの解析から、同じ正二十面体巨大ウイルスにおいても種によってその粒子構成が大きく異なることがわかってきた。我々の研究以外にも最近、2種類の正二十面体巨大ウイルス(PBCV-1、ASFV)についてその近原子分解能の粒子構造が明らかになった。そこでは、表面を覆うMCPの構造には高い相同性が見られるものの、これらを配置するmCPの構造や内部の裏打ち構造には大きな違いが存在することがわかった。これらは、我々が解析を進めるTkVやMedVと比較してもその構造の共通部分や独自部分が明らかで、構造における進化の過程をたどるための大きな手がかりを与えている。さらに粒子形成過程も含む詳細な構造および形態解析をすすめることにより、詳細な構造進化地図が描けるものと期待する。以上、研究計画はおおむね予定通り進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後、さらに詳細な構造解析を進める。TkVについては同マルセイユ科ウイルスで系統のことなるホクトウイルス(HktV)についても構造解析を進める。HktVには、宿主細胞を集群(バンチ)化する性質があり、TkVとの構造的な違いが期待される。また、MedVについては、未完成の粒子をも細胞外に多数放出する性質があり、これら粒子を合わせて構造解析することで、粒子の形成過程をも明らかにできると期待できる。その点で、巨大ウイルスの構造比較分類に留まらず、巨大ウイルスの進化の過程にも直接踏み込むことができる可能性がある。残りの期間を用いてこれらの解析を進める構造における系統進化をたどる計画である。
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