研究領域 | 植物新種誕生の原理―生殖過程の鍵と鍵穴の分子実態解明を通じて― |
研究課題/領域番号 |
19H04850
|
研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
池田 美穂 (樋口美穂) 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (10717698)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 胚乳発生 / 転写因子 / 糖蓄積 / 核分裂 / 糖代謝酵素 |
研究実績の概要 |
2019年度は、受精非依存的に胚養育能を有する胚乳発生を誘導するLONGATION OF SILIQUE WITHOUT POLLINATIONS : ESPsのうち、ESP3とESP1aに着目して、研究を遂行した。 まず、ESP3についてのトランスクリプトーム解析の結果、Pro35S:ESP3SRDX(ESP3sx)の未受精胚珠において胚養育に関与する糖代謝酵素cwINV4やヘキソース輸送体SWEET17の発現が上昇することを確認した。糖分析の結果、ESP3sxの未受精胚珠には、本来は受精後に蓄積するべきフルクトースなどのヘキソース類やスターチが蓄積していた。この糖類の蓄積がESPsx胚乳の胚養育能と関連すると思われた。その一方で、ESP3sxの未受精胚乳においては中央核は分裂せず、細胞化も進行しなかった。 ESP3sxにおける未受精での糖蓄積のメカニズムを解析するために、cwINV4とSWEET17のレポーターラインを作成、解析した結果、cwINV4は珠柄に近い組織で、SWEET17は珠皮3層目で、どちらも受精後に発現していた。ESP3は過剰発現時にも未受精で胚乳発生すること、esp3ゲノム編集体では胚乳発生が不全であること、内性のESP3が受精後の胚乳特異的に発現することから、内性のESP3は受精後に胚乳への糖蓄積を促進する因子と考えられた。 一方で、ESP1aについては、オリジナルプロモーターを用いたキメラリプレッサー植物(ProESP1a:ESP1aSRDX)、および、ゲノム編集個体(esp1a)を作成し、その両方において未受精での胚珠肥大を確認した。また、内性のESP1a遺伝子が胚嚢形成時期から珠心において発現することを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ESP3キメラリプレッサーコンストラクト(ESP3sx)発現時に、本来は受精後に蓄積するはずの糖が蓄積することを発見したことから、未受精での胚養育能の要因の一つとして「糖の蓄積」の存在を示すことができた。また、ESP3sxにおいては中央細胞核の分裂なしに糖が蓄積したことから、これまではお互いに関連した現象と考えられていた「核分裂」と「糖蓄積」を分けることができた。これは本分野における1つの重要な成果と言える。 ESP3については、多角的な解析結果から、本来は受精後に胚乳発生に関与する因子らしいことを突き止めた。 また、ESP1aについては、何らかの胚乳発生を抑制する転写活性化因子であることが明らかとなった。 研究結果は当初の予想通りではないが、予想外の成果も出ており、全体としてはおおむね順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
ESP3はキメラリプレッサー発現時にも過剰発現時にも同じ表現型を示すことから、本来の分子機能が転写抑制因子、もしくは、DNA非結合の因子と思われる。また、異所発現時には未受精胚珠への糖蓄積を誘導するが、本来は受精後の胚乳で発現する遺伝子である。今後は、内性のESP3の生物学的機能に迫るべく、esp3ゲノム編集個体の種子発生、胚乳形成の表現型をさらに詳細に解析する。また、胚乳発生段階ごとに発生パターンを変える内性ESP3の発現パターン変化の詳細な解析を行う。 ESP1aについては、引き続き、キメラリプレッサー体、および、ノックアウト体の胚珠の詳細な細胞学的解析、トランスクリプトーム解析などを遂行し、その生物学的機能の解析を通して、胚乳発生制御メカニズムの解明に近づく。
|