研究領域 | 植物新種誕生の原理―生殖過程の鍵と鍵穴の分子実態解明を通じて― |
研究課題/領域番号 |
19H04851
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
土松 隆志 千葉大学, 大学院理学研究院, 准教授 (60740107)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 集団ゲノミクス / 自殖 / 自家不和合性 |
研究実績の概要 |
植物の新種誕生過程では、環境に適応した新しい遺伝子セットを維持するために、他殖から自殖への生殖様式の移行を伴う例が多く知られている。そのため、特に他殖性植物から新種を生み出し安定して維持するためには、自殖性への転換が重要なステップである。自殖性への転換過程については、これまで特にモデル植物シロイヌナズナを用いた研究が進んできた。しかしながら、既知のシロイヌナズナ系統のほとんどが数万年前程度を共通祖先とする一方、近縁他殖種との分化は約500万年前と進化上の長いミッシング・リンクがあり、新種誕生と自殖の進化の初期過程の詳細は以前明らかではなかった。本研究では、アフリカ・地中海地域の祖先的シロイヌナズナを用いて新種誕生と自殖の進化の初期過程を解明することを目的とする。さらに、同様に自殖性が起源したナス科ペチュニア属植物においても集団ゲノミクス解析を行いシロイヌナズナの知見と比較検討することで、最終的に新種誕生と自殖の進化にみられる普遍的パターンを見出すことを目標としている。これまでにシロイヌナズナにおいて、ゲノムワイド関連解析から花粉数を規定する遺伝子を発見し、自殖の進化に伴い花粉数が減少する過程を分子レベルで解明したほか、自家不和合性から自家和合性への移行の分子進化の詳細を明らかにしてきた。現在、ペチュニア属植物において多数系統のリシーケンス解析や、花形質に関するQTL解析を進め、自殖の平行進化が同様の遺伝背景で生じたのか等を解明しようとしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シロイヌナズナにおいてゲノムワイド関連解析から花粉数を規定する遺伝子を新規に発見し、自殖の進化に伴い花粉数が減少する過程を分子レベルで解明した論文の受理・出版が決まるなど、本研究の重要な成果がまとまりつつある。さらに、本新学術領域のゲノム支援のサポートも得てペチュニア属植物のリシーケンス解析も順調に進んでおり、自殖の進化に関して様々な種群で比較検討する準備が整いつつある。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 自殖に関わる花形質のQTL解析/ゲノムワイド関連解析:引き続き、自殖の進化に伴って変化する花形質の進化の遺伝的背景について、QTL解析およびゲノムワイド関連解析を行う。複数の独立に進化した種・系統を比較することで、自殖に関わる花形質の変化が同じ遺伝子の突然変異によるのか等を解明する。 (2) ペチュニア属植物の集団ゲノミクス解析:本新学術領域のゲノム支援のサポートを得て行ったペチュニア属植物のリシーケンスデータについて、集団構造解析等の集団ゲノミクス解析を行うことで、自殖の進化と種の起源段階における集団動態を推定する。 (3) 進化シミュレーション解析:(1), (2) により得られるデータも用いて、種分化・生殖隔離・自殖の進化過程に関する計算機シミュレーションを行う。とくに、アブラナ科・ナス科双方の知見を踏まえて、その違い・共通点がシミュレーションにより再現されるかに着目する。
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