研究領域 | 植物新種誕生の原理―生殖過程の鍵と鍵穴の分子実態解明を通じて― |
研究課題/領域番号 |
19H04864
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
小牧 伸一郎 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (50584588)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 減数分裂 / ゲノム倍加 |
研究実績の概要 |
研究代表者はこれまでの研究で、植物が高頻度に起こすゲノム倍加の発生機構に、細胞周期チェックポイントの一つである、紡錘体形成チェックポイント(SAC)が深く関与していることを明らかとした。これは、植物の「体細胞」が継続的なストレスに晒されると、細胞分裂をM期で停滞させるために必要なSAC を解除することで、ゲノム倍加を引き起こすというものである。しかし、自然界に存在する多くのゲノム倍加植物は「減数分裂」での染色体の分離異常を介して種分化を起こしたと考えられている。そこで本研究では、体細胞と同様に「減数分裂期細胞が継続的なストレスに晒されると、SACを解除することでゲノム倍加を引き起こす」という仮説を立証することを目指している。 今年度は、植物の減数分裂期細胞にSACが存在することを目標とした。これまでに植物の減数分裂にSACが存在することを明確に示した報告はなかった。そこでまず、シロイヌナズナを用いて減数分裂中の細胞でのSAC関連遺伝子の発現およびそのタンパク質局在を調べたところ、全ての関連遺伝子が発現し、体細胞で示した局在と同様の局在様式をとることがわかった。また、野生型植物の減数分裂期細胞に微小管重合阻害剤であるOryzalinを処理すると、M期の進行が遅くなることが明らかとなった。このM期の進行の遅延がSACに依存するかどうかを調べるために、SAC関連遺伝子の1つであるMAD2の変異体に同様の処理を行い、M期の進行を調べた。すると、野生型植物とは異なり、OryzalinによるM期の進行の遅延は観察されなかった。以上のことから、植物の減数分裂期細胞にもSACが存在することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目標としていた植物の減数分裂期細胞にSACの機能が備わっていることを明らかにすることが出来た。また、体細胞分裂時と同様に、継続的なストレスを減数分裂期細胞に処理するとゲノム倍加した細胞が一定の割合で確認された。しかし、結果が安定しないため、複数の細胞層の下に位置する減数分裂期細胞へのストレス処理の方法をさらに検討する必要があると考える。
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今後の研究の推進方策 |
植物の減数分裂期細胞も継続的なストレスによって、SACが解除されることで倍数化した細胞が出来上がることがわかった。この結果は、減数分裂期の染色体の分離異常を介したゲノム倍加植物の誕生にもSACを解除することが鍵となっていることを示唆する。しかし、ストレス処理には微小管脱重合剤であるオリザリンを使用しており、高温や低温といったより自然界に近いストレス条件での検証も試みる必要がある。 また最近、SACと協調してゲノムの維持に関与するChromosome passenger complex (CPC)の構成要因を発見することが出来た。そこで、このCPCの減数分裂期細胞での働きやSACとの関連も併せて研究を行っていく予定である。
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