研究領域 | 植物新種誕生の原理―生殖過程の鍵と鍵穴の分子実態解明を通じて― |
研究課題/領域番号 |
19H04866
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
波間 茜 (久保田茜) 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (70835371)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 花成 / 野外環境 / FT / 温度 |
研究実績の概要 |
生殖過程を成功させる第一段階は、適切な時期の花成誘導である。これまでに考えられてきた季節性花成制御の分子モデルでは、「夕方の時間帯 (鍵穴) に光シグナル (鍵) が入力されることで花成ホルモンであるFT遺伝子の発現が誘導される」、外的符合モデルが広く受け入れられている。しかし申請者らは、このモデルは野外で観察されるFT発現を説明できないことを発見した。そこで本研究では、野外におけるFT発現制御の鍵となる「光」および「温度」に着目し、これらの環境シグナルが「いつ」入力されることが花成制御に重要かを明らかにすることとした。その結果、一日の気温変動のうち、朝夕の低温が季節シグナルとして機能し花成抑制に重要である一方、日中の高温は一過的な環境シグナルとして花成を顕著に促進させることを明らかとした。さらに、低温および高温シグナル下でFT発現を制御する主要な因子を同定するとともに、その制御メカニズムを一部明らかとした。これらの結果から、野外環境において植物は、一日の異なるタイミングに応じて温度応答を変化させることで、花成応答を最適化している可能性が示唆された。これらの結果を基に、現在投稿論文を執筆中である。 一方で、温度ごとのトランスクリプトーム解析により、高温および低温シグナルそれぞれについて新規の花成制御因子を単離することに成功し、新たな花成制御経路が存在する可能性を見出すことができた。現在これらの候補因子について詳細な解析を行っているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、温度シグナルを中心とした解析を進め、高温および低温それぞれに対して一日のどのタイミングにおける温度シグナルが花成応答に重要であるかを生理学的に明らかにした。また、トランスクリプトーム解析を用いることで、温度シグナルに関連する新規の花成制御因子を探索し、新たに候補因子を見出すとともに、温度シグナルが他のシグナル経路を介して花成を制御する可能性を新たに見出した。これらの成果は、新たな花成制御ネットワークが存在する可能性を示唆しており、今後の研究の発展が期待される。 一方で、FTの主要な転写制御因子であるCOの転写・翻訳産物に対する温度変動の影響を解析し、温度変化がCOタンパク質の蓄積量を変化させることで朝夕のFT発現のバランスを決定づけ、花成時期を調節する作業仮説を提唱することができた。温度変動が花成制御を行う分子メカニズムについては未解明な点が多いため、これらの成果は今後野外の花成応答を解析するうえで重要な知見となることが期待される。 また、トランスクリプトーム解析を利用してCOタンパク質の安定性または転写活性を制御する新たな花成制御因子をいくつか絞り込むことに成功した。現在、得られた候補因子の多重変異体及び過剰発現体の作出と表現型解析を進めており、おおむね作業仮説に沿う結果を得ることができている。したがって研究はおおむね順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析により、植物は、一日のうち特定のタイミングにおける温度応答を変化させることでFT発現及び花成時期を調節すること、またその具体的な分子メカニズムを明らかにすることができた。今年度は、得られたデータをまとめて投稿論文として発表することを第一目標として研究を進める。 一方で、高温シグナルについては、FT近傍のエンハンサー領域を含むクロマチンの立体構造が1日を通じてダイナミックに変化することが、遺伝子発現制御に重要な役割を果たす可能性を見出した。そこで今年度は、クロマチン立体構造を直接評価する実験系を確立することで、これらの作業仮説を検証する。具体的にはChromatin conformation captureと呼ばれる手法により、日中の高温が翌日の朝のFT遺伝子領域のクロマチン構造を変化させる可能性と、高温によるFT誘導において主要な役割をもつbHLH型転写因子の関与を検証する。 また、時空間特異的にFT遺伝子を誘導することで、時間特異的なFTの機能を検証する実験計画については昨年度に進捗が遅れたため、今年度に配属される大学院生とともに必要な形質転換体の作出を進めることで後れを挽回する。
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