研究領域 | 植物新種誕生の原理―生殖過程の鍵と鍵穴の分子実態解明を通じて― |
研究課題/領域番号 |
19H04868
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
岡本 龍史 首都大学東京, 理学研究科, 教授 (50285095)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 受精 / 卵細胞 / 精細胞 / 受精卵 / 異種交雑 |
研究実績の概要 |
雌雄配偶子ゲノムが協調的に機能することによって受精卵は正常に発生する。本課題では、同質および異質受精卵の発生機構を解析することにより、受精卵発生機構および異種間軋轢による胚発生不全機構を解明することを目的として、下の各項目の研究を遂行した。 (1) OsASGR-BBML1の標的遺伝子群の同定および受精卵初期発生過程における転写因子カスケードの特定:DD45プロモータ下でOsASGR-BBML1を発現する形質転換イネから単離した卵細胞の分裂・発生能を確認した。また、当該細胞の1細胞トランスクリプトーム解析のためのプラットフォームを構築した。 (2) 異質交雑受精卵の発生プロファイルと異種ゲノムの保持・存在状態:コムギ、イネおよびトウモロコシin vitro受精系を組み合わせることにより多様な異質倍数性受精卵を作出し、それらの発生プロファイルを調べた。その結果、コムギ(♀)-トウモロコシ(♂)交雑受精卵は分裂・増殖し、半数体コムギが得られた。コムギ-イネ交雑受精卵の場合は、核相を倍にしたイネ精細胞を用いることで受精卵は分裂・増殖を進め、植物体にまで発生・再分化した。また、このイネ-コムギ交雑植物体はコムギゲノムほぼ全体を有し、そこにイネゲノムの断片が挿入されていることが示唆された。さらに、交雑受精卵・胚中における異種染色体(ゲノム)の脱落過程をRGEN-ISL法によって可視化することを試み、イネおよびコムギ体細胞中における動原体の可視化に成功した。加えて、異種の卵細胞を用いた組み合わせの異質倍数性受精卵由来の植物体が異種のオルガネラDNAを合わせ持つ細胞質雑種植物(cybrid 植物)であることが示された。 (3) 卵細胞の受精非依存的な分裂・発生機構:卵細胞の自律的分裂を誘導するスベロイルアニリドヒドロキサム酸 (SAHA) の誘導体を用いた解析を進めたが、SAHAの標的酵素の特定には至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) OsASGR-BBML1の標的遺伝子群の同定および受精卵初期発生過程における転写因子カスケード:DD45プロモータ下でOsASGR-BBML1を発現する形質転換イネから単離した卵細胞を培養したところ、受精非依存的な分裂および増殖細胞塊への発生が確認された。これら卵細胞、および受精卵の初期発生過程おける詳細かつ経時的な遺伝子発現プロファイルを明らかにすることを目的に、卵細胞の1細胞トランスクリプトーム解析を試み、細胞1個で十分に再現性があるデータが得られる実験条件を特定した。 (2) 異質交雑受精卵の発生プロファイルと異種ゲノムの保持・存在状態 (I):コムギ-トウモロコシ交雑受精卵は分裂・増殖し、半数体コムギが得られた。一方、コムギ-イネ交雑受精卵は発生しなかったが、核相を倍にしたイネ精細胞を用いて作出した交雑受精卵は分裂・増殖を進め、植物体にまで発生・再分化した。ゲノムシークエンス解析により、この植物体はコムギゲノムほぼ全体を有し、そこにイネゲノムの断片が挿入されていることが示唆された。また、交雑受精卵・胚中におけるイネおよびトウモロコシ染色体(ゲノム)の脱落過程をRGEN-ISL法によって可視化することを試み、それら体細胞中における動原体の可視化に成功した。さらに、イネ卵細胞とコムギ卵細胞を用いた組み合わせの異質倍数性受精卵由来のイネ-コムギ植物体が異種のオルガネラDNAを合わせ持つ細胞質雑種植物(cybrid 植物)であることも明らかにされた。 (3) 卵細胞の受精非依存的な分裂・発生機構:卵細胞の自律的分裂を誘導するスベロイルアニリドヒドロキサム酸 (SAHA) の標的酵素を特定することを目的として、12種のSAHA誘導体の効果を調べたが有効な誘導体の特定には至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 受精卵発生における父性鍵転写因子 (OsASGR-BBML1) の標的遺伝子群の特定:卵細胞特異的プロモーター下でOsASGR-BBML1を発現させた形質転換イネ(DD45p:OsBBML1, EC1p:OsBBML1)から卵細胞を単離および培養し、卵細胞でのOsASGR-BBML1の異所的発現による分裂・発生誘導を再確認する。その後、①卵細胞、②受精卵、③OsASGR-BBML1を異所的発現させた卵細胞、および④OsASGR-BBML1-SRDXを発現させることでOsASGR-BBML1の機能を抑制させた受精卵についてトランスクリプトーム解析を行い、それらの遺伝子発現プロファイルを比較することで、OsASGR-BBML1の標的遺伝子群候補を同定する。 (2-1) 異質交雑受精卵の発生プロファイルと異種ゲノムの保持・存在状態:発生が進行する交雑正常胚と発生が停止してしまう交雑不全胚における異種ゲノム(染色体)の保持状態を確認する。その後、それら胚のトランスクリプトーム解析を行い、2種の交雑胚における遺伝子発現プロファイルの違いを明らかにする。さらに、交雑受精卵発生過程におけるゲノム脱落過程の可視化を試みる。これに加え、イネ-コムギcybrid植物を用いることで、核ゲノム-オルガネラゲノムの異種間相互作用機作の一端を明らかにし、発生不全機構と核-オルガネラ相互作用の関係性を見つけ出す。 (3) 卵細胞の受精非依存的分裂・発生機構:SAHA誘導体について卵細胞の分裂・発生誘導率を調べることで、SAHAの構造のどの領域が標的酵素との相互作用に重要であるのか明らかにする。また、イネの18種のHDAC様遺伝子のうち、いずれのHDAC遺伝子が卵細胞で機能しているのか特定するとともに、SAHA処理を行った卵細胞と未処理の卵細胞、および受精卵における遺伝子発現プロファイルの相違の比較を進める。
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