研究領域 | 植物新種誕生の原理―生殖過程の鍵と鍵穴の分子実態解明を通じて― |
研究課題/領域番号 |
19H04869
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
丸山 大輔 横浜市立大学, 木原生物学研究所, 助教 (80724111)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 卵細胞 / 助細胞 / 中央細胞 / 重複受精 / 花粉管誘引 / アクチン / 精細胞 |
研究実績の概要 |
花粉管から放出された精細胞は卵細胞と中央細胞に挟まれた受精領域へ送り込まれる。受精領域は花粉管や助細胞の内容物、卵細胞や中央細胞からの分泌物が入り混じる特殊な環境である。この場が重複受精にどのような役割をはたすか調べるため、未受精胚珠の卵細胞と中央細胞の間に存在するパッチ状の細胞外構造と、助細胞におけるアクチンの解析を行ってきた。パッチ状の細胞外構造の解析については、卵細胞特異的にドミナントネガティブ型SAR1を発現させたことで卵細胞外のパッチ状構造が消失した胚珠の受精の瞬間を、東山班のスピニングディスク式共焦点顕微鏡を用いてライブイメージングした。その結果、パッチ状構造を欠損する胚珠で受精領域の形成不全と放出された精細胞のポジショニング異常の動態を撮影することができた。これにより、パッチ状の細胞外構造は受精領域のスムーズな形成を介して、自ら動く細胞構造を持たない精細胞を受精可能な適切な位置へと輸送する役割をもつことが示唆された。 一方、ドミナントネガティブ型のアクチンを助細胞で発現させたシロイヌナズナが示す、不稔性表現型の原因を調べたところ、花粉管誘引の欠損が起きていることが示唆された。東山班と共同でAtLURE1.2の免疫染色観察を行ったところ、通常は胚珠表面に分泌されるはずのAtLURE1.2が検出されないことがわかった。これにより、花粉管誘引物質の適切な分泌活動の調節に、アクチン繊維が重要な役割をはたす可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
卵細胞の細胞外構造の解析については、EC1ファミリータンパク質についてのプロテアーゼによる成熟化の研究など、多重変異体の作製が予想以上に困難であった。そのため、計画をしていたような成果を得るに至っていない。しかし、その一方で、昨年度のライブイメージングの解析によって、十分な研究の進展があった。つまり、これまでは重複受精に対する直接的な役割を示すことができなかったが、ライブイメージングを取り入れることによって、細胞外構造を欠損するシロイヌナズナの胚珠が示す重複受精欠損の表現型の原因が、花粉管が精細胞を放出したときの受精領域の形成と深く関わりがあることを示すことができた。 一方で、アクチン重合を妨げるドミナントネガティブ型のアクチンを発現した助細胞の機能解析は、当初想定をしていたような、精細胞の放出場所の制御異常を引き起こしたわけではなかった。ところが、詳しく解析をしてみると、助細胞において縦方向に配向するアクチン繊維は、AtLURE1.2をはじめとする花粉管誘引物質を細胞外へと適切に分泌するために重要な役割をはたすという、新たな受精を支えるしくみを発見することができた。 いずれの解析も、論文として発表できるデータが揃ってきていることからも、本研究がおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
卵細胞特異的にドミナントネガティブ型SAR1を発現させて卵細胞外のパッチ状構造が消失した胚珠の解析については、現在のところ、観察例が少ないので同様の観察を継続することで十分な品質のデータになるように仕上げをする。また、アクチンの機能解析については、アクチン繊維を破壊することで、花粉管誘引物質が分泌に特化した助細胞の細胞壁構造である線形装置と運ばれる過程が妨げられた可能性が考えられる。これについて検証するため、ドミナントネガティブ型アクチンを助細胞で発現した場合のAtLURE1.2やAtTICKET1, QIUXIU4などの細胞内局在変化を観察する。東山班の武内博士が作製した、これらの花粉管誘引ペプチドとのCitrine融合レポーター遺伝子を昨年度中に分与してもらい、形質転換体の栽培を進めている。7月中にこれらのレポーターラインを解析した結果を追加する。同様に、これらの花粉管誘引物質のレポーターラインの胚珠に対して、アクチン繊維の重合を阻害する薬剤として知られるLatrunculin Aを処理し、花粉管誘引ペプチドの分泌前の細胞内局在への影響を解析する。以上のデータをそれぞれまとめて、2本の論文として発表する。
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