本研究ではシロイヌナズナ花粉管放出の直後、重複受精に先立って起こる雌雄の配偶子間相互作用について、卵細胞や助細胞の分泌タンパク質、精細胞の露出などの観点から解析を進めた。助細胞の分泌タンパク質の解析については、助細胞特異的に優性欠損型ACTIN8を発現させたときに花粉管誘引欠損が誘導されることがわかっていた。今年度は花粉管誘引ペプチドであるAtLURE1.2にCitrineを融合したレポーターラインを用いて解析し、AtLURE1.2の極性分泌におけるアクチン繊維形成の重要性を示すことができた。卵細胞の細胞外構造の機能解析については、COPII小胞形成異常を誘導する優性欠損型SAR1を発現させることで、卵細胞のタンパク質を阻害したところ、卵細胞と中央細胞の間に存在するパッチ状の細胞外構造が消失することが示されていた。今年度は優性欠損型SAR1を中央細胞特異的に発現させた。その結果、パッチ状構造の形成に欠損はみられなかったため、卵細胞を覆うパッチ状の細胞外構造の形成は卵細胞の分泌が中心になっていることを明らかにすることができた。これまでの研究で、精細胞を覆う内部形質膜とよばれる単膜系が花粉管内容物の放出直後受精領域で素早く崩壊する様子を観察しており、この膜崩壊が精細胞表面の露出させることで配偶子間相互作用に重要な役割をはたすことを提唱してきた。本年度は同様の崩壊が花粉管を培地上で伸ばしたときに確率的に起きる内容物放出でも観察されることを明らかにした。また、マンニトール溶液添加による浸透圧ショックによって誘導された内容物放出の場合は内部形質膜が安定に維持されることも示した。以上の結果から、内部形質膜の崩壊が花粉管放出と密接につながった生理的現象であることを示すことができた。
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