公募研究
膜交通はオルガネラ間の物質輸送を担う真核生物に普遍的な細胞機能である一方、その分子機構は系統毎に多様化し、それぞれの生物に特有の生命現象に深く関わっていることが知られている。我々は植物の生殖過程の中でも特に雄性配偶子形成における細胞形態変化および細胞膜タンパク質組成を制御する膜交通のメカニズムとその役割を解明する。シロイヌナズナの雄原細胞・精細胞で機能する膜交通因子に注目し、エンドサイトーシスにおいて輸送小胞への積み込みを制御する候補因子としてPICALM1を同定している。また、細胞膜に局在するSNAREであるSYP1のうち、一部が精細胞で発現することを示唆する結果を得た。さらに、東山班との共同研究から、雌性配偶子形成における細胞化過程において、SYP1に属するSNAREであるKN/SYP111とSYP112による細胞板形成を介した細胞質分裂が起きることを明らかにした。ゼニゴケの雄性配偶子形成過程では、細胞膜に局在するSNAREが液胞に運ばれて分解される。この現象とエンドサイトーシスによる制御の関連を明らかにするため、ゼニゴケのPICALMに注目した解析を進めている。現在までに、ゼニゴケのPICALMのうち、少なくとも1つが雄性配偶子形成過程で強く発現することを明らかにしており、他のPICLAMについても詳細な解析を行っている。また、全身的に発現するPICALMやSNAREなどを雄性配偶子形成過程特異的に機能欠損させることを目的として、雄性配偶子形成過程特異的プロモーターを利用した変異体の作出も進めている。この他、雄原細胞の取り込み過程において、一部のGH17遺伝子がBNB2の下流で発現制御されること、GH17の多重変異体では雄原細胞においてカロースの蓄積と栄養細胞による取り込みの異常があることを見いだした。
3: やや遅れている
本年度の研究として、既知の雄性配偶子形成に関わる因子の相互作用因子の網羅的解析を通して、雄性配偶子形成に関わる新規因子の単離を行うことを目標としていたが、条件検討および栽培条件の調整等により、この実験については遅れが生じた。一方で、雄性配偶子形成における膜交通に関わると考えられる因子の解析については、レポーターを用いた解析が順調に進んだこともあり、想定通りの進行となった。以上のことから、全体としてはやや遅れる結果となった。
本年度明らかにしたシロイヌナズナの雄原細胞・精細胞で機能すると想定される膜交通因子について、変異体の詳細な解析を通し、これらの役割を明らかにする。また、ゼニゴケのPICALMに注目した解析では、レポーターを用いた発現・局在解析と変異体の詳細な解析を行う。この他、領域内共同研究を通して、ゼニゴケの雄性配偶子形成に関わる新規因子の解析を進める。
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