2020年度は、主体価値形成を促進する認知行動療法を学校教育カリキュラムに組み込んで実施し、その効果を明らかにすることを目的とした。特に、2019年度に得た成果の信頼性を高めることに主眼を置いて、2019年度と同様の研究を継続してサンプルサイズを大きくすることで、解析結果の信頼性の向上に努めた。 公立小中学校各1校計2校において、通常授業時間を利用した学級ベースの認知行動療法を実施し、一次アウトカム変数(行動問題)および二次アウトカム変数(主体価値、感情調整)に対する介入効果を検証した。2019年度に収集したデータと統合して再解析を行った結果、行動問題への効果については、これまでと同様の結果が示された。すなわち、介入に参加した小中学生は、参加しなかった小中学生よりも、衝動性・不注意の問題が減少し、情緒の問題も改善する傾向を示した。一方、本研究計画のもうひとつの目標(主体価値の改善に寄与する変数を同定する)に照らし合わせてアウトカム変数同士の連動性を検証したところ、主体価値や感情調整の向上と行動問題の改善が関連するというモデルは支持されなかった。これは、研究参加者数がより少なかった2019年度の解析結果と異なるものであり、主体価値と行動問題の関連性について現段階では明確な結論が得られないことを意味する。 さらに、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大という状況を受けて、2020年の緊急事態宣言期間中の子どもの行動問題の実態調査を行った。その結果、低学年児童や低所得家庭を中心として、衝動性・不注意の問題が特に増加しており、学校等の公的機関を含む地域でのケアが必要となる可能性が示された。 教育現場で即時利用可能な直接的成果が得られたとは言い難いものの、介入効果の調整因子の同定やサブグループ解析の必要性など、今後の研究への示唆に富んだ重要な知見を得たといえる。
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